Ligand Redox Noninnocence in [CoIII(TAML)]0/– Complexes Affects Nitrene Formation
Nicolaas P. van Leest, Martijn A. Tepaske, Jean-Pierre H. Oudsen, Bas Venderbosch, Niels R. Rietdijk, Maxime A. Siegler, Moniek Tromp, Jarl Ivar van der Vlugt, and Bas de Bruin
DOI: 10.1021/jacs.9b11715
J. Am. Chem. Soc. ASAP
雑誌会スライド8、9枚目の[CoIII(TAMLsq)]–の有効磁気モーメントの数値が[CoIII(TAMLred)]–のものになっていましたので、訂正致します。
誤:µeff= 2.94 µB(S =1/2)
正:µeff= 1.88 µB (S =1/2)
Evans 法
NMRによって常磁性化合物の磁化率を求める方法。以下の式1– 5によって磁化率、有効磁気モーメントおよびスピン量子数Sが得られる。
以下はSupporting Informationの記述である。
1. 常磁性種、内部標準を含んだ溶液を入れたNMRチューブの中に、内部標準だけを含んだ溶液を入れたキャピラリーを入れ、NMRを測定する。
2. 内部標準のピークのシフト幅Δνから磁化率χ(cm3g-1)を計算する(式1)。1
(ν0: 共鳴周波数、c:常磁性種の濃度、M : 常磁性種のモル質量)
3. 磁化率χにMを掛けることで、モル磁化率χM(cm3mol-1)を計算する(式2)。
4. χMから反磁性種のモル磁化率χDiaMを差し引いて常磁性種の正味のモル磁化率χPMを計算する(式3)2。
5. 得られたχPMを式4に代入して有効磁気モーメントを求め(T:絶対温度)、式5からSを求める。
参考文献
1. Evans, D. F. J. Chem. Soc., 1959, 2003–2005.
2. Bain, G. A.; Berry, J.F. J. Chem. Educ., 2008, 85, 532–536.
CASSCF(Complete Active Space Self Consistent Field)Calculation
CASSCF法とは、分子軌道法計算の多配置SCF(MCSCF)法の一種である。
(配置間相互作用(CI)法>多配置SCF(MCSCF)法> CASSCF法)
分子軌道法では波動関数を一つのSlater行列式で表現し、SCF(自己無撞着場)法によってシュレディンガー方程式を解くハートリー・フォック(HF)法が知られているが、HF法は電子相関の効果について考慮していないため、化学反応を定量的に議論するだけの精度の計算結果を得ることができない。したがって、化学反応について定量的に議論するためには電子相関の効果を取り込んだ近似計算の手法が必要となる。その一つが配置間相互作用(CI)法である。ハートリー・フォック(HF)法では基底状態の電子配置に対応する一つのSlater行列式で波動関数を表すのに対して、配置間相互作用(CI)法では電子相関の効果を取り込むために、基底状態と励起状態のそれぞれの電子配置に対応するSlater行列式(配置状態関数、CSF)の線型結合で波動関数を表現する。しかし、取り扱う分子の電子数が増加するにつれて考慮する電子配置も増加するため、膨大な量の計算が必要となってしまい適用範囲が限定される。そこで、配置間相互作用(CI)法の線型結合に用いるSlater行列式の数に制限を加え、結合性軌道への励起配置のみに限定してCI計算を行う手法を多配置SCF(MCSCF)法という。CASSCF法とは、多配置SCF(MCSCF)法の一種であり、特定の結合性軌道の組の中で考えうる全ての励起配置に対応するSlater行列式の線型結合で波動関数を表現して計算を行う。
例
CASSCF(x, y): x個の価電子をy個の結合性軌道に割り振る際の、全ての可能な電子配置に対応するSlater行列式の線型結合で波動関数を表して計算を行う。
参考文献
1. 常田貴夫「密度汎関数法の基礎」(講談社、2012)
2. 藤永 茂「分子軌道法」(岩波書店、1980)
3. 米澤貞次郎・永田親義・加藤博史・今村 詮・諸熊奎治「量子化学入門(下)」(化学同人、1964)
Q2. [CoIII(TAMLsq)]–のEPRにおける溶媒の影響
DCM、ベンゼン中では溶媒は配位しないので平面4配位で存在していると考えられる。(著者らはトルエン溶液のXANESで錯体は平面4配位であるとショルダーの吸収(~7715 eV)から帰属している。) 一方で、アセトニトリル中では[CoIII(TAMLsq)]–が正方錐型5配位状態の[CoIII(TAMLsq)(MeCN)]–として存在していると著者らはており、EPRのシミュレーションは5配位錯体として行なっている。非配位性溶媒のDCM、ベンゼンでのg値(giso= 2.22 (at r.t.), giso=2.24 (at 10K))とアセトニトリルでのg値(giso= 2.00 (at r.t.))が異なるのは、配位構造の違いに由来すると考えられる。
Q6. ナイトレンラジカル錯体の寿命
寿命自体に関する言及はないが、合成やESI-MSなどのキャラクタリゼーションは室温で行っているため、ナイトレンラジカル種にしては比較的安定であると考えられる。安定性の理由に関する言及はなく、なぜ安定に存在するかは不明。
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