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5月, 2019の投稿を表示しています

190508_雑誌会回答(矢野)

Spin Interconversion of Heme-Peroxo-Copper Complexes Facilitated by Intramolecular Hydrogen-Bonding Interactions Andrew W. Schaefer, † , § Melanie A. Ehudin, ‡ , § David A. Quist, ‡ Joel A. Tang, ‡ Kenneth D. Karlin, * , ‡ and Edward I. Solomon * , †   DOI: 10.1021/jacs.9b00118   J. Am. Chem. Soc. 2019 , 141 , 4936 − 4951    ヘムパーオキソ銅錯体の分子内水素結合によりロースピン状態が安定化され、温度に依存した SCO (スピンクロスオーバー)がみられたことを、紫外可視吸収スペクトル、 2 H NMR 、共鳴ラマンスペクトル、 DFT 計算により確認した論文です。 5 配位ハイスピン状態 (5C HS) から 6 配位ロースピン状態 (6C LS) になる際、溶媒の MeTHF が配位した 6 配位ハイスピン状態 (6C HS) を経ることが確認されています。 Q. 水素結合の形成は温度を下げるとエントロピー的に不利になるのではないか Q. 5C HS から 6C LS への変化の際、サイドオンからエンドオンへの構造の変化によるΔ S の変化はどのくらいあるか   A. DFT 計算により求めた、 5 配位ハイスピン状態 (5C HS) から 6 配位ロースピン状態 (6C LS) になる際の熱力学的パラメーターをまとめた表を以下に示します。   まずエントロ ピー変化については、どの置換基をもつ錯体においても溶媒の結合による寄与が大きく、その次にスピン状態の変化の寄与があり、サイドオンからエンドオンへの構造の変化による影響はほとんどないといえます。  エンタルピー変化については、 5C HS から 6C HS へ変化する際に NH2 TMPA において負に大きく

190515_雑誌会回答_安

Mechanistic Dichotomy in Proton-Coupled Electron-Transfer Reactions of Phenols with a Copper Superoxide Complex William. B. Tolman and co-workers , J. Am. Chem. Soc. 2019 , 141 , 5470-5480. DOI: 10.1021/jacs.9b00466 同じ配位子を有し、活性部位のみが異なる二種の錯体[CuO 2 ]+, [CuOH]2+の反応性について、フェノール類を基質に用いて比較した論文です。 [質問1]不安定な中間体である[CuOOH]2+のpKaの求め方 上図において、 [CuOOH]2+のpKaを求めるためには [CuOOH]2+/+のE 1/2 の値と [CuOOH]+のBDEの値を求める必要がある。 CVにより [CuOOH]2+/+が非可逆波を示すことが実験的にわかった。そこで、異なるスキャン速度でのhalf-waveをシミュレーションすることで [CuOOH]2+/+のE 1/2 は-0.215 V (vs Fc+/Fc) と見積もられた。 次に [CuOOH]+のBDEの値を求めたいが実験的に求めるのは困難なため、以下の近似を行う。 上図において反応機構の交差点(X = Me)付近ではPT機構とCPET機構の熱力学的なdriving forceはだいたい同じである(ΔG PT = ΔG CPET )と仮定する。 ここで、 ΔG PT 、 ΔG CPET 、BDE CuOO-H (in DMSO)、BDFE ArO-H (Me) (in THF)はそれぞれ以下の式で表せる。 ΔG CPET =  BDFE ArO-H (Me) -  BDE CuOO-H ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・eq1 BDE CuOO-H   = 1.37 pKa( CuOO-H ) + 23.06  E 1/2 (CuOOH) +  C H ・・・・・・・・・・・・・eq2 ΔG PT  = 2.303 RT ( pKa( ArO-H (Me) ) -  pKa( CuOO-H ) )・・・

190424_雑誌会回答 (福井)

Tuning the Geometric and Electronic Structure of Synthetic High-Valent Heme Iron(IV)-Oxo Models in the Presence of a Lewis Acid and Various Axial Ligands J. Am. Chem. Soc. 2019 , 141 , 5942–5960. DOI: 10.1021/jacs.9b00795 本論文は、様々な置換基をアキシアル位に有した、もしくはルイス酸付加体を有した鉄 (II) ポルフィリン錯体、鉄 (IV) オキソポルフィリン錯体を合成し、同定に成功した。また、鉄 (IV) オキソポルフィリン錯体にルイス酸が付加することによる、酸化力の向上を確認した。 Q, Badger’s rule とは何か ? Badger’s rule は Badger によって提唱された経験則であり、 rR により得られた振動数を用いることで原子間の結合長を求めることができる規則であり、多原子分子において非常に有用であり適用されていた ( 式 ① ) 。 ここで核間距離は、求めたい結合長の両端の原子によって決定される値である。 Michael T. Green はこの経験則を鉄ポルフィリン錯体でも適用可能であることを証明するための実験を行った。その結果、 17 種のヘム ( ○ )(Tab) について DFT 計算によって導かれた Fe-O 間の伸縮振動数、結合長 (Table 1) をプロットすると Badger’s rule を表す直線 (Figure 1) が得られた。このことから、 Budger’ rule が分子量の大きな化合物でも適応可能であることが示された。 今回は鉄ポルフィリン錯体への適用であったが、他の錯体についても経験的な定数を求めることで、伸縮振動数から結合長を求めることができて有用であると考える。 Q. F 8 Cmpd-II に Lewis 酸として 2,6-Lutidinium triflate を添加しているが、 triflate のアキシアル位への配位は起こっていないのか ? F 8 Cmpd-II に

190522_雑誌会回答(河合)

Nucleophilic versus Electrophilic Reactivity of Bioinspired Superoxido Nickel(II) Complexes Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 14883 –14887  DOI: 10.1002/ange.201808085 電子供与性の高いビウレット配位子を用いて新規のNi(II)スーパーオキソ錯体の合成を行い、この錯体と、先行研究において合成されていたβ-ジケチミネート配位子を用いたNi(II)スーパーオキソ錯体の求核・急電子の反応性の違いについてDFT計算を用いて考察を行った論文です。 Q. Cu=Oが活性種として再び反応しないのか。 プレゼン資料にあった求核的反応のメカニズムですが、SIにより詳細なスキームが記載されておりました。(下図参照)それによるとCu=Oが基質のO隣の水素を引き抜く事で 、Cu-OHが生成し、ヒドロキソ錯体が活性種となることで反応が進行するというスキームが提案されていました。 A. R. McDonald and coworker, Angew. Chem. Int. Ed. 2014 , 53, 5946 – 5950     Q. なぜ、βスピンが多いときHAAが進みやすいのか。 この質問については、強磁性相互作用と反強磁性相互作用のどちらの方がエネルギー的に安定であるかとの質問とも重なるところが多いかと思われるのですが、実際に詳細な考察はなされていないのが現状です。 質疑応答でも少し触れたように、4重項励起状態においては、Ni(II)高スピン(d8)の不対電子2つとスーパーオキソの1つの不対電子との強磁性相互作用を起こし、スピンの向きが揃うことによって、磁気モーメントとしては大きくなっています。反対に、2重項励起状態においては、それぞれの電子が反強磁性相互作用を起こすことによって下図に示すような電子状態をとっているのではないかと考えます。 元の相互作用を起こしていない状態と比べると、この状態は全体のLUMOが低下していると考える事ができるため、HAAのような

190417_雑誌会回答 (新家)

Experimental Evidence for pKa-Driven Asynchronicity in C–H Activation by Terminal Co(III)-Oxo Complex J. Am. Chem. Soc. 2019 , 141, 4051−4062 DOI: 10.1021/jacs.8b13490 末端にオキソを持つコバルト三価錯体を用いて、様々な基質のC–H結合活性化について検討を行い、反応性が基質のpKaに依存することやその反応機構がPTETではなくCPETであること実験的に調べた論文です。 Q. ηとはどういった値か ηは非同期なプロトンと電子移動の熱力学的に知ることのできる値です。 上図で示すような軸を設定したグラフにおいて E°H=E°eff+RT/F×ln(10)×pKa,eff, (1) の式からE°Hを算出し、軸にベクトルとして描きます。 次に、E°effおよびRT/F×ln(10)×pKa,effの値から点をプロットします。 この点と∆E°Hの軸との距離がηの値となります。 また η=2^(−1/2)×(ΔE°eff−RT/F×ln(10)×ΔpKa,eff). (4) という式も成立します。 非同期な水素原子移動反応においては、電子移動が優勢(ETPT)であればηはより正側の値を取り、プロトン移動が優勢(PTET)であればηはより負側の値を取ります。 今回の論文では、ηが負の値を取っていたことからプロトン移動が電子移動よりも優勢であると主張しています。 またE°effはE°とE°’、pKa,effはpKa,redとpKa,oxの平均値として定義しており、それぞれの値は下図で示されるE°およびpKaです。 E ° H = E ° eff + R T / F × ln ( 10 ) × p K a,eff ηの値について以下の論文を参考にしました。 Martin Srnec et al ., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2018, 115 (44), E10287. doi.org/10.1073/pnas.1806399115