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Regulating the Basicity of Metal − Oxido Complexes with a Single Hydrogen Bond and Its E ff ect on C − H Bond Cleavage Suman K. Barman, Jason R. Jones, *  Chen Sun, Ethan A. Hill, Joseph W. Ziller, and A. S. Borovik * 概要 配位子に異なる p 置換基を有するフェニル基を導入することでNH結合の特性を変化させ、 Mn III -oxido 錯体への水素結合の強さを調節することで p Ka (MnOH) をチューニングできる錯体を合成し、それらの外部基質との反応性について考察しています。 錯体のキャラクタリゼーションと p Ka (Mn-OH) とフェニル基の p 置換基との間にハメット相関が見られたことから、 p 置換基により Mn III -oxido 錯体への水素結合の強さを変化させることで、 p Ka (Mn-OH) を調節できていることが分かりました。 また DHA との反応性からは反応の二次速度定数と p Ka との間にもハメット相関が見られました。さらに活性化パラメータおよび KIE からはプロトン移動が律速であると支持されました。しかし同じ p Ka ( CH ) を有するキサンテンを用いて反応性を検討すると、DHAと比較して速度定数は大きな値を示しました。この結果から単純な PTET ではなく、プロトンと電子が遷移状態で不均一に移動する acynchronous なメカニズムを支持すると筆者らは述べています。 回答 1、非対称配位子の合成法                                Scheme 1.                                Scheme 2.                                Scheme 3. tert-Butyl(2-(bis(2-aminoethyl)amino)ethyl)-carbamate(1) を tert-butylisocyanate と反応させ

Four-Coordinate Copper Halonitrosyl {CuNO}10 Complexes

Four-Coordinate Copper Halonitrosyl {CuNO} 10 Complexes Jamey K. Bower, Alexander Yu Sokolov, and Shiyu Zhang* Shiyu Zhang らによる銅ニトロシル錯体 {CuNO} 10 の報告です。 銅ニトロシル錯体は {CuNO} 11 と {CuNO} 10 の2種類が報告されています。 {CuNO} 11 の結晶構造は今まで3例ほど報告されていますが、 {CuNO} 10 の結晶構造は Hayton らによる、溶媒のニトロメタンが配位した1例しか報告されていません。 今回銅ハロゲン化物に低温 (-85ºC) で一酸化窒素を吹き込むことで、 [Cl 3 CuNO] – ({CuNO} 10 ) が生成することを確認しました。 また、温度を 35ºC  まで上昇させると、一酸化窒素を放出する逆反応も進行することも報告しています。 同様の化合物は亜硝酸イオンと塩酸を銅ハロゲン化物に加えることでも生成することも確認しています。 UV, IR, ,EPR, X-ray で {CuNO} 10 種の分光学的測定を行なっており、これらの結果から、銅と一酸化窒素配位子の酸化状態はそれぞれ Cu(II) と• NO の状態であり、それぞれの不対電子が反強磁性的にカップリングした S = 0 の状態であると結論づけています。 通常、銅と一酸化窒素の付加体は、一酸化窒素からの逆供与が可能な直線構造をとることが多いのですが、この直線構造は {CuNO} 11 種に多く見られている一方で、今回も含めて {CuNO} 10 種では全て折れ線構造であることに非常に興味が持たれています。 また、自分の扱っている銅一酸化窒素付加体も同様の折れ線構造であることが示唆されました。 また、この銅一酸化窒素付加体に対して、アミン、アルコキシラート、チオールを求核剤として反応させることで、それぞれのニトロソ化化合物が高収率で得られることも報告しています。 配位子ではなくハロゲンイオンを用いている点で、もちろん電子の寄与などは異なりますが、配位子による構造的な縛りはなく最安定な構造で存在しているため、

Hemilabile Proton Relays and Redox Activity Lead to {FeNO}x and Significant Rate Enhancements in NO2− Reduction

Hemilabile Proton Relays and Redox Activity Lead to {FeNO} x  and Significant Rate Enhancements in NO 2 −  Reduction Pui Man Cheung,† Kyle T. Burns,† Yubin M. Kwon,† Megan Y. Deshaye,† Kristopher J. Aguayo,† Victoria F. Oswald,§ Takele Seda,⊥ Lev N. Zakharov,‡ Tim Kowalczyk,*,† and John D. Gilbertson*,† DOI: 10.1021/jacs.8b08520 J. Am. Chem. Soc .  2018 ,  140 , 17040 − 17050 概要 筆者たちは、今までレドックス活性配位子にペンダントアミン部位を導入することで、電子、プロトンの両方を必要とする亜硝酸イオンの一酸化窒素への還元反応を可能にしてきました。 今回の論文では、立体構造を制御したペンダントアミン部位を導入することで、ペンダントアミン部位が中心金属に着脱可能になり、それによって亜硝酸イオン還元反応の初期速度の向上が見られたことを報告しています。 質問回答 Q1 ペンダントアミンを持たない錯体の NO 付加反応の機構 今回 hemilability を導入した錯体においては、中間体としてペンダントアミンが配位した錯体が生成していますが、 hemilability を持たない錯体では亜硝酸イオンが代わりに配位した中間体が生成していると考えられます。 その2種類の中間体の安定性や生成速度の違いが、 hemilability を有する錯体との初期速度の差を生んでいると考えられます。 Q2 初期速度で速度論をする理由 最終的な2分子の亜硝酸イオンの還元においては、ペンダントアミンの立体障害(つまり hemilability )は関係してきません。 (赤と青の線に注目) このことが示唆しているのは、1分子目の亜硝酸還元は hemilability によって

Tetrahedral nickel(II) and cobalt(II) bis-o-iminobenzosemiquinonates

  Irina V. Ershova, a   Ivan V. Smolyaninov, b   Artem S. Bogomyakov, c   Matvey V. Fedin, c   Andrey G. Starikov, d   Anton V. Cherkasov, a   Georgy K. Fukin a   and Alexandr V. Piskunov * a  本論文では、bis-o-iminobenzosemiquinonateを配位子として用いたCo, Ni錯体(imSQ t-Bu ) 2 M (M = Ni (1), Co (2))の合成、同定を行なってます。ここで用いられているimSQは、4,6-di-tert-butyl-N-(tert-butyl)-o-iminobenzoquinoneのラジカルアニオン体です。各錯体は下に示すようなスキームに従って合成されていました。  錯体1,2はXRDによって構造が明らかにされており、中心金属に対して歪んだ四面体構造をとっており、中心金属とimSQ配位子との配位結合角は約80ºであるとされています。磁化率測定によって得られた構造、分光学的データによると、錯体1,2におけるNi,Coはそれぞれハイスピン状態 (Ni(II): d8, S = 1, Co(II):d7, S = 3/2 )  をとっており、二つの配位子ラジカル(Srad = 1/2)と結合していることが明らかにされました。これによって、金属-配位子間で強い反強磁性相互作用を起こし、基底状態において錯体1,2はそれぞれSt = 0, St = 1/2の電子状態をとっていることが示唆されました。これらの結果は、UB3LYP/6-311++G(d,p)を用いたDFT計算によって導き出された値と良い一致を示しました。  各錯体のCV測定によって、カソード側において[M(AP 2 ) 2- ]と[(imSQ)M(AP)] 1- の二つのアニオン生成に対応する擬可逆的な一電子移動の還元波をもつことが確認されました。この全ての還元過程は、配位子ベースで起こっていること考えられています。   本研究で用いられている o-iminobenzosemiquinoneは、室温において

Bioinspired Manganese and Iron Complexes for Enantioselective Oxidation Reactions: Ligand Design, Catalytic Activity, and Beyond

Wei Sun,* Qiangsheng Sun Cite This:Acc. Chem. Res.2019 Publication Date:July 23, 2019 https://doi.org/10.1021/acs.accounts.9b00285 鉄、マンガン錯体を用いた不斉酸化触媒についてのレビューです。配位子の構造、基質の選び方、参考になりそうです。 うちでもよく使う、ピリジルアミン系配位子が出てきますが、メチレンリンカーへの嵩高い置換基が効果的なようです。 また、スピロ化合物(下図、右上)なんかも不斉酸化のターゲットになるんですね。

Ruthenium-catalysed oxidative conversion of ammonia into dinitrogen

Article | Published: 24 July 2019 Kazunari Nakajima, Hiroki Toda, Ken Sakata & Yoshiaki Nishibayashi  Nature Chemistryvolume 11, pages702–709 (2019)  窒素還元をやっている、東大西林研の研究で、 ルテニウム錯体を触媒として アンモニアを窒素へと酸化した研究です。酸化剤はマジックブルー、錯体は、水の酸化で一斉を風靡したチュンメルの錯体です。 活性種の観測こそありませんが、ニトリド錯体がカップリングすることでN–N結合が生成すると提唱しています。窒素錯体は、結晶も取れています。 ピリジンの6位のカルボン酸のヘミレイバビリティがいい仕事してるんでしょうね。きれいな研究です。

Valence-to-Core X-ray Emission Spectroscopy as a Probe of O -O Bond Activation in Cu2O2 Complexes

Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 1 – 7 DOI: 10.1002/anie.201903749 George E. Cutsail III, Nicole L. Gagnon, Andrew D. Spaeth, William B. Tolman, and Serena DeBeer* Valence-to-Core (VtC) X-ray emission spectroscopy (XES) と呼ばれる測定手法を用いることで、錯体中にどの程度O-O結合が存在するのかを明らかにした論文です。 上図のような、金属にCuを有する二核錯体であるbis(μ-oxo)錯体とperoxo錯体は、その間に非常に小さな活性化障壁しかないため、速い平衡状態にあります。そのため、どちらが反応の活性種であるのか明らかにすることは非常に難しい課題でありました。 O-O結合の開裂およびその形成は酸素を含む金属錯体の反応機構において、非常に重要な役割を担っていると考えられています。 bis(μ-oxo)錯体とperoxo錯体それぞれについてのVtC XES測定およびDFT計算により、O-O結合がどの程度存在するのかを明らかにしています。また、錯体の電子状態を基に、より詳細な議論がなされています。

Chromium-Salen Catalyzed Cross-Coupling of Phenols: Mechanism and Origin of the Selectivity

J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 10016−10032 DOI: 10.1021/jacs.9b03890 Yexenia Nieves-Quinones, Thomas J. Paniak, Young Eun Lee, Sun Min Kim, Sergei Tcyrulnikov, and Marisa C. Kozlowski* Department of Chemistry, Roy and Diana Vagelos Laboratories, University of Pennsylvania, Philadelphia, Pennsylvania 19104, United States フェノール類の選択的なクロスカップリング反応について書かれた論文です。 Cr-salen触媒を用いた場合、従来のフェノール類のクロスカップリング反応とは異なる生成物選択性を示すことがわかりました。そこで本研究では、 Cr-salen触媒を用いた フェノール類のクロスカップリング反応において、その反応メカニズムについて詳細に検討しています。 反応の律速段階やカップリングする部位の選択性を決める反応ステップに関して、速度論・重炭素同位体効果・DFT計算を用いて解明しています。 フェノール類のクロスカップリング反応に関しては、その反応メカニズムについて解明されていない部分が多く、今回の研究はこの分野において重要な知見になると考えられています。 上図において、反応の律速段階は、Cr(III)から活性種であるCr(V)への酸化であることがわかりました。また、DFT計算およびKIEより、反応に選択性に関与するのはC-C結合の形成ステップであることが明らかとなりました。

Direct Resonance Raman Characterization of a Peroxynitrito Copper Complex Generated from O2 and NO and Mechanistic Insights into Metal‐Mediated Peroxynitrite Decomposition

Jeffrey J. Liu,  Maxime A. Siegler,  Kenneth D. Karlin, Pierre Moënne‐Loccoz First published: 03 June 2019 https://doi.org/10.1002/anie.201904672 Karlin、Moënne‐Loccozらによるペルオキシナイトライト銅錯体の論文です。 Moënne‐Loccozは、Karlin研のOBのようです。 スーペルオキシド種(シンドラー錯体)と一酸化窒素が反応すると、ラジカルカップリングのような反応で、OONOが生成します。この錯体を、–120ºCの条件でラマンで捉えています。 ペルオキシナイトライトは、より安定な異性体である硝酸アニオンへと異性化することが知られています。 この論文では、不安定なO–O結合が開裂して、オキシルと二酸化窒素が生成すると主張しています。 フェノールを基質として加えておくと、フェノールダイマーが生成することから酸化活性種が生成しているとしています。 確かにこのO–O結合は弱いので(たしかBDEの本にも数字があったはず)、本当であれば、高活性なオキシル種を生成する方法としてつかえると思います。 –90°Cに昇温すると、ペルオキシナイトライト配位子が、トリゴナルバイピラミダルの軸位に単座で配位した構造から、二座配位になるそうです。グアニジノ基はかなり供与性が高いのですが、外れるといってます。へーって感じです。

Dicopper μ‐Oxo, μ‐Nitrosyl Complex from the Activation of NO or Nitrite at a Dicopper Center

Dicopper μ‐Oxo, μ‐Nitrosyl Complex from the Activation of NO or  Nitrite at a Dicopper Center Wenjie Tao, Jamey K. Bower, Curtis E. Moore, and Shiyu Zhang* Department of Chemistry and Biochemistry, The Ohio State University, 100 West 18th Avenue, Columbus, Ohio 43210, United States DOI: 10.1021/jacs.9b03635 J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 10159 − 10164 この論文は Warren group に所属していた Shiyu Zhang さんらによる論文です。 今まで結晶構造の報告例のない、2核銅 μ- オキソ , μ- ニトロシル錯体を2種類の方法で合成し、その結晶構造、反応性について報告しています。 今回この2核銅 μ- オキソ , μ- ニトロシル錯体が合成できた理由として、2つの銅の間の距離が重要であると考え、構造は似ているが2核構造を取らない(つまり2つの銅間距離の制限がない)配位子を用いて検証を行っています。その結果、2つの銅の間の距離が大きい (4.3 Å ) と NO 結合の開裂は起きずに亜硝酸イオンとして存在する一方で、2つの銅の間の距離が制限され小さい (2.8 Å ) と、亜硝酸イオンとして存在するより、今回のような μ- オキソ , μ- ニトロシルとして存在する方が安定となるそうです。 酸化活性に関しては、ホスフィン、シクロヘキサジエンなどの酸化反応を行うことができると報告しています。   2核錯体は複雑で難しいですが、今回のような μ- ニトロシル構造を取ることのできる錯体なら、亜硝酸イオンを用いることで、今回のような求核的なオキシルドナーとして機能させることも不可能ではないのではないかと筆者らは期待しています。  

Investigating the Underappreciated Hydrolytic Instability of 1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene and Related Unsaturated Nitrogenous Bases

https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.oprd.9b00187?rand=gzylk8tq Alan M. Hyde, Ralph Calabria, Rebecca Arvary, Xiao Wang, Artis Klapars Department of Process Research & Development, MRL, Merck & Co., Inc. United States Org. Process Res. Dev. 2019, ASAP メルクの社員さんの論文です。DBUなどのアミジン、あるいはグアニジン構造を持った塩基が、ゆっくりと加水分解していることを報告しています。薬の研究中にそれに気付いて、ちゃんと報告せねばならんと思ったと書いてあります(偉い人たちですね)。 上の表の塩基について実験しています。微量の水から水酸化物イオンが出て、それにより加水分解が始まるので、たとえば水溶液にしたときに、pHが11.6以下なら分解しないそうです。 TBDという塩基、DBUより強いので、使ってみても良さそうですね。

M−O Bonding Beyond the Oxo Wall: Spectroscopy and Reactivity of Cobalt(III)‐Oxyl and Cobalt(III)‐Oxo Complexes

Erik Andris  Rafael Navrátil  Dr. Juraj Jašík  Dr. Martin Srnec  Mònica Rodríguez  Prof. Miquel Costas  Prof. Jana Roithová Angew. Chem. Int. Ed., 2019 ,58,2. First published: 13 May 2019 https://doi.org/10.1002/anie.201904546  この論文では気相中で高原子価ガス状コバルトオキソ錯体を調製し、その物性について質量分析および赤外光分離分光法を用いてキャラクタリゼーションを行っています。  一般に第8族以降の金属オキソ錯体と比べ第9族以降の金属オキソ錯体の報告例は少なく、このことはオキソの壁と呼ばれています。  筆者らは第9族のコバルトを用いたオキソ錯体は高い反応性を持つだろうと考えイオン分光法およびイオン分子反応による完全なキャラクタリゼーションを行うために、十分長く存続できる気相中で錯体の調製を行ったと述べています。  今回行った極低温気相イオン分光法では3つの利点があります。1つ目は対象のイオンが真空中で分離されるためヘリウム原子以外との相互作用が起こらない点。2つ目はイオンが数Kまで冷却されることで基底電子状態および基底振動状態となる点。3つ目はスペクトルが質量選択されたイオンに結び付けられるため、通常の溶液系で存在する干渉を受けずに済む点です。これにより同じ m / z を持つ異性体イオンを検出しキャラクタリゼーションを行うことができます。  コバルトオキソ錯体の調製は[(N4Py)Co II (ClO 3 )]を電気化学的に酸化することで行っています。詳細なキャラクタリゼーションについては質量分析、ヘリウム標識赤外分光法(IRPD)、可視光解離分光法(visPD)といった分光法、炭化水素との反応性の検討、理論計算により行なっているようです。  結論としてはコバルト(III)オキソ錯体はセクステットの鉄(III)オキソ錯体と同程度の強度のコバルト–オキソ結合を有していたものの、C–H、S–H結合に対しての反応性はなかったそうです。  一方でコバルト(IV)オキシルでは非常に弱いコバルト–オキシル結合を有しており、

Cobalt Superoxo and Alkylperoxo Complexes Derived from Reaction of Ring-Cleaving Dioxygenase Models with O2

Praveen Kumar, Sergey V. Lindeman, and Adam T. Fiedler* J. Am. Chem. Soc.2019XXXXXXXXXX-XXX Publication Date:June 28, 2019 https://doi.org/10.1021/jacs.9b05320 Copyright © 2019 American Chemical Society  中心金属をコバルトに置換した開環ジオキシゲナーゼの活性部位のモデル錯体の合成と酸素との反応性について検討を行った論文です。  今回の論文ではアミノフェノール型の tBu2 APH配位子とフェイシャルトライアードな2-ヒスチジン-1カルボキシレート型のTP R2 配位子を持つコバルト錯体を用いています。 以下に示すように、コバルト錯体は低温条件下で酸素と反応させることで2種類の酸素付加体をとることを筆者らは見出しています。 1つ目は、常磁性(S=1/2)のコバルト(III)スーパーオキソ種(2-O 2 )です。こちらはUV-visやEPRといった分光法による過去の先行例との比較およびDFT計算を用いて同定が行われています。  2つ目は、金属イオンおよび配位子へのO 2 付加により生成されたコバルト(III)アルキルパーオキソ種(3)です。こちらはX線結晶構造解析を用いて同定が行われています。これはスピロエンドパーオキサイド構造の第一列遷移金属錯体として最初の報告例となります。  今回得られた酸素付加体は酸素活性化酵素の触媒サイクルにおいて提唱されている中間体の合成に対する重要なものであると考えられます。 開環ジオキシゲナーゼの想定触媒サイクル
Chloride Control of the Mechanism of Human Serum Ceruloplasmin (Cp) Catalysis Shiliang Tian, Stephen M. Jones, Anex Jose, and Edward I. Solomon * セルロプラスミン (Cp) は血液中に含まれる銅の運搬と代謝、および鉄の代謝にも関与している蛋白です。 この論文では血液中に最も豊富に存在するアニオンである Cl - が Cp 触媒作用の重要な役割を果たしていることを報告しています。 Cl - は Cp 中の部分的に還元された三核銅クラスター (TNC) と相互作用し、還元電位を変化させます。 この変化によりT1CuからTNCへの分子内電子移動 (IET) を加速し、TNCからCp内へのIETを可能にすることで触媒回転が早くなることが分かりました。

A Terminal Fe(III)−Oxo in a Tetranuclear Cluster: Effects of Distal Metal Centers on Structure and Reactivity

A Terminal Fe(III)−Oxo in a Tetranuclear Cluster: Effects of Distal Metal Centers on Structure and Reactivity Christopher J. Reed and Theodor Agapie DOI: 10.1021/jacs.9b03157 J. Am. Chem. Soc . 2019 , 141 , 9479 概要 AgapieらのグループはPhotosystemIIにおける酸素発生部位である、マンガンカルシウムクラスターなど天然に存在する金属クラスターに着想を得た触媒の開発に取り組んでいるグループです。 今回の論文では、彼らがよく用いている配位子系に水素結合を形成する部分を導入することで三価鉄オキソ種の安定化に成功しています。 また、末端の鉄オキソ種以外の3つの鉄に関しても、その酸化状態を変化させた錯体に関して単離しており、メスバウアー、CV、X-rayなどを用いて詳しく解析しています。 この論文の面白いところは末端の鉄原子は全くレドックスしないまま残りの3つの鉄原子の酸化状態が変化することで反応性は変化することです。 フェノール類との反応に関して、錯体5ではプロトン移動が起こるのに対して、錯体6、錯体7ではプロトンと電子の移動が起こりました。 p Ka 、酸化還元電位、BDEなど熱力学的パラメーターを求めると、直接反応に関与していない3つの鉄が酸化されていくとp Ka は小さくなる一方、BDEが大きくなることが分かりました。これにより高酸化状態ではプロトントランスファーよりPCETのような反応が起こりやすくなることが理論的にも支持されました。 また錯体5に関して、種々のアルカンを用いて酸化反応を行うとその二次速度定数はBDEではなくp Ka に依存することが明らかとなりp ka- drivenの反応であることが示唆されました。 質問回答 Q1 BDEと相関がないが大きなKIE(DHAの場合で6.7)が出ている。 A1 今回、筆者らがpKa-drivenの反応であるとした際に引用していた論文は以前新家君が雑誌会で紹

Fenton-Derived OH Radicals Enable the MPnS Enzyme to Convert 2‐Hydroxyethylphosphonate to Methylphosphonate: Insights from Ab Initio QM/MM MD Simulations

Binju Wang,*,† Zexing Cao,† Carme Rovira,‡,§ Jinshuai Song,∥ and Sason Shaik*,⊥ †State Key Laboratory of Physical Chemistry of Solid Surfaces and Fujian Provincial Key Laboratory of Theoretical and Computational Chemistry, College of Chemistry and Chemical Engineering, Xiamen University, Xiamen 360015, P. R. China  ‡DepartamentdeQuímicaInorgaǹicaiOrgaǹica&IQTCUB,UniversitatdeBarcelona,MartíiFranques̀1,08028Barcelona,Spain  §InstitucióCatalanadeRecercaiEstudisAvanca̧ts(ICREA),PasseigLluísCompanys,23,08020Barcelona,Spain ∥College of Chemistry and Molecular Engineering, Zhengzhou University, Zhengzhou 450001, P. R. China ⊥Institute of Chemistry, The Hebrew University of Jerusalem, 9190407 Jerusalem, Israel J. Am. Chem. Soc.2019141239284-9291 Publication Date:May 27, 2019 https://doi.org/10.1021/jacs.9b02659 Copyright © 2019 American Chemical Society リン酸アルコールを脱炭酸する酵素の反応機構を計算化学的に考察した論文です。鉄二価中心に、アルコールが配位した後、鉄(III)スーパーオキシドアニオンが生成し、アルコールのα位の水素を引き抜くことで反応が進行します。そこからの可能な反応機構は