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8月, 2019の投稿を表示しています

Bio-inspired Nonheme Iron Oxidation Catalysis: Growing Evidence for the Involvement of Oxoiron(V) Oxidants in Cleaving Strong C–H Bonds

Subhasree Kal, Shuangning Xu, Lawrence Que, Jr.* Angew. Chem. Int. Ed. 10.1002/anie.201906551 この総説では、アルカンの水酸化やオレフィンのエポキシ化反応を行う鉄5価オキソ錯体について、その同定や反応機構についてまとめられています。鉄5価オキソの生成に補助配位子の水分子が関与する系、補助配位子のカルボン酸が関与する系、ルイス酸が鉄3価(ハイドロ)パーオキソ中間体を活性化する系、また鉄5価オキソ種の直接的証拠を観測した系の4つの分類で構成されています。 この論文中で取り上げられている錯体は以下のFigure1に示す非ヘムの4N配位子を有する錯体で、いずれの系においても鉄5価オキソが生成するpathについて詳しく議論されています。また、鉄5価オキソ種のUV-vis spectroscopy, EPR, Mossbauer, EXAFS, resonance Raman, CSI-MS, などの種々の分析結果や基質との二次反応速度定数などがまとめられています。

Enhanced Rates of C−H Bond Cleavage by a Hydrogen-Bonded Synthetic Heme High-Valent Iron(IV) Oxo Complex

Melanie A. Ehudin, David A. Quist, and Kenneth D. Karlin* J. Am. Chem. Soc.   2019 , 141 , 12558−12569  この論文は、鉄四価オキソポルフィリン錯体(F 8 Cmpd-II)にルイス酸として2,6-ルチジニウムトリフラートを加えることで、C-H結合活性化の向上に成功したことを報告しています。  具体的には、Figure3に示されているように2,6-ルチジウム付加体を用いた場合により高難度なC-H結合の活性化に成功し、第二配位圏の水素結合が活性種の反応性に与える影響が大きいことが示されています。 基質としてジヒドロアントラセンを用いた反応ではC-H、C-D結合の活性化をUV-visスペクトルにおいて観測することで、KIEは81となり、反応の律速段階が水素原子引き抜きであることを発見しました。また、LutH+とLutD+をそれぞれ付加体として用いた場合におけるジヒドロアントラセンとの反応ではKIEは0.68となり、水素結合が基質との反応に影響を与えていることが示唆されています。

Generation and Reactivity of a One‐electron Oxidized Manganese(V) Imido Complex bearing a Macrocyclic Tetraamido Ligand

Tai-Chu Lau,  Huatian Shi,  Jianhui Xie,  William W. Y. Lam,  Wai-Lun Man,  Chi-Keung Mak, Shek-Man Yiu,  Hung-Kay Lee Eur. J. Chem 2019 First published: 20 July 2019 https://doi.org/10.1002/chem.201902405 Tai-Chu Lauらのグループから、マンガン(V)-イミド錯体についての報告です。支持配位子は、鉄(V)-オキソ錯体の研究でもよく用いられている、TAML系の配位子です。 彼らは、結晶構造を得ることにも、成功しています。

Preparation and characterisation of a bis-μ-hydroxo-Ni(III)2 complex

Chem. Eur. J. 10.1002/chem.201902812 http://dx.doi.org/10.1002/chem.201902812 Authors: Giuseppe Spedalotto, Robert Gericke, Marta Lovisari, Erik Farquhar, Brendan Twamley, and Aidan Richard McDonald ヒドロキソ架橋の高原子価二核錯体は酵素の活性種に多く見られることから注目されている。本論文では上図のNi(II)Ni(II)ヒドロキソ錯体(1)にCANを添加することにより、ヒドロキソ架橋構造を変えずに Ni(II)Ni(III)錯体(2)、さらに Ni(III)Ni(III)錯体(3)へと酸化反応が進行することを初めて見出した。 これらの錯体の生成はEPR、UV-vis spectroscopy、XANES、DFT計算により支持されている。 また、錯体2および3に関しては、各種bis(μ-oxo)錯体と反応性の比較が行われており、錯体3が高い反応性を示すことが明らかとなった。

A Terminal Iridium Oxo Complex with a Triplet Ground State

Daniel Delony,  Dr. Markus Kinauer,  Dr. Martin Diefenbach,  Dr. Serhiy Demeshko,  Dr. Christian Würtele,  Prof. Dr. Max C. Holthausen,  Prof. Dr. Sven Schneider First published: 02 June 2019 https://doi.org/10.1002/anie.201905325 この論文では、 メリディオナル三座配位子を持つ イリジウム(II)-オキシル錯体の生成を、単結晶X線構造解析、IRなどから確認しています。結合長は約 1.8 Å 、Ir–O の振動数は740 cm-1 程度です。 イリジウム(II)ヒドロキシド錯体を、フェノキシラジカルによりHAT酸化することで、イリジウム(II)-オキシル錯体へと変換できるほか、銀により電子移動酸化した後に塩基を入れることによってもオキシル錯体が得られます。 2,4,6-トリメチルフェノキシラジカルとの間のHATが平衡過程であることから、BDEが 84 kcal mol-1 程度であることが調べられています。 模式的な電子配置からも予測されるように、イリジウム中心とオキシル配位子上のスピンは直交しており、トリプレットが基底状態となっていることについても言及しています。SQUIDもとっているようですが、J値が出ていないので、かなり三重項のほうが安定なのでしょう。ゼロ磁場分裂定数 (D) は、647 cm-1 と、かなり大きな値となっています。 DFTによる計算のセクションでは、多参照理論の方法の一つである擬縮退摂動法を利用して、重たいIrでは重要になってくる相対論効果を取り込んだ計算を行っています。 トリプレットーシングレット間のエネルギー差(J)が10 kcal mol-1 以上であり、ゼロ磁場分裂定数(D)が740 cm-1 程度であると、計算されました。 反応性についても以下の図のような反応が進行するようです。COの酸化を確認しているのは、こちらの分野の人、ならではです。CO2への求核攻撃も起こるようです。 Credit: Willy

Highly Selective and Catalytic Oxygenations of C−H and C=C Bonds by a Mononuclear Nonheme High‐Spin Iron(III)‐Alkylperoxo Species

Ivy Ghosh,  Sridhar Banerjee,  Dr. Satadal Paul,  Dr. Teresa Corona,  Prof. Tapan Kanti Paine Angew. Chem. Int. Ed. 2019 First published: 27 June 2019 https://doi.org/10.1002/anie.201906978 インド、Paine研の報告です。 ピラゾール系の配位子が多かったように思うのですが、Borobicらも使っている、ウレア系のリガンドを使った酸化反応です。おもしろいのは、ウレアのNではなく、カルボニル基を配位させている点です。クメンヒドロペルオキシドを酸化剤として、様々なC–H結合、C=C結合の酸化を行っています。シクロヘキサンが20回程度回るようです。 クメンペルオキシド付加体は、Mossbauer測定含めて同定していますが、オキサイドは残念ながら、見ていないようです。ベースを入れると、反応が促進されることから、 ウレアのN–Hが抜けると考えているようです。

Fast Oxygen Reduction Catalyzed by a Copper(II) Tris(2-pyridylmethyl)amine Complex through a Stepwise Mechanism

Michiel Langerman and Dennis G. H. Hetterscheid* Angew. Chem. Int. Ed. 2019 First published: 24 July 2019 https://doi.org/10.1002/anie.201904075 酸素と銅錯体の反応性の化学は、Cu(TMPA)錯体から大きく展開したといっても過言では無いと思います。 この錯体を用いると、触媒的に酸素が還元できることは知られていました。 この論文では、触媒回転頻度(TOF)をきちんと評価したところ、これまでで最も大きい値である10万回/秒に達したと報告しています。 過電圧が0.5 V程度必要である点、酸素はほとんど4電子還元されて水になる点などは、知られているとおりです。 かれらはRing Rotating Disc Electrode を使って、もうちょっと真面目にこの辺も研究していて、過電圧が小さくなり、錯体濃度が低くなると、過酸化水素が結構出るぞ、と報告しています。

Ligand Identity-Induced Generation of Enhanced Oxidative Hydrogen Atom Transfer Reactivity for a CuII2(O2•–) Complex Driven by Formation of a CuII2(−OOH) Compound with a Strong O–H Bond

David A. Quist, Melanie A. Ehudin, Andrew W. Schaefer, Gregory L. Schneider, Edward I. Solomon,* Kenneth D. Karlin* Publication Date:July 12, 2019 https://doi.org/10.1021/jacs.9b05277 Karlinらのグループから、銅二核ペルオキシドに関する論文です。 この系自体の歴史は長く、2つの銅中心がフェニル基によって架橋された錯体を利用して、銅(I)-銅(I)種と酸素を反応させ、二核銅(II)-η2:η2-ペルオキシドを生成させた1980年代の研究にまでさかのぼります。このペルオキシド種は、架橋部位として用いられているフェニル基を酸化し、フェノール誘導体となることを彼らは随分前に、見出しています。 水酸化された配位子は、ちょうど水酸基が銅に配位するところに酸素があるので、これをなかだちとなる配位原子として利用しているのが、本論文の背景です。 銅にしっかり配位しているので、これ以上酸化されません。 (たしか)この銅錯体に、ヒドロペルオキシドが配位したもの、ペルオキシドが配位したものは報告されていますが、今回の論文では、スーペルオキシド種を捉え、そのラジカル部位の水素引き抜き能を約81 kcal mol-1と決定しました。

O−O Bond Formation and Liberation of Dioxygen Mediated by N5-Coordinate Non-Heme Iron(IV) Complexes

Angew. Chem. Int. Ed. 2019 https://doi.org/10.1002/anie.201903902 Nicole Kroll, Ina Speckmann, Marc Schoknecht, Jana Gülzow, Marek Diekmann, Johannes Pfrommer, Anika Stritt, Maria Schlangen, Andreas Grohmann,* and Gerald Hörner* Institutfür ChemieTechnische Universität Berlin UniversitätBayreuth O–O結合の生成反応は、水の酸化プロセスにも含まれる極めて基礎的な結合生成プロセスですが、この過程を効率的に触媒することのできる物質が無いために、それを探す研究が活発に進められています。 この研究では、非ヘム鉄(II)錯体を、mCPBA あるいは ヨードシルベンゼンによってFe(IV)(O)錯体とした後に、ここにmCPBAを加えると酸素が発生することを報告しています。 この研究では、あまり、報告例の多くない5座配位子を利用しています。

Ruthenium(II) Porphyrin Quinoid Carbene Complexes: Synthesis, Crystal Structure, and Reactivity toward Carbene Transfer and Hydrogen Atom Transfer Reactions

Ruthenium(II) Porphyrin Quinoid Carbene Complexes: Synthesis, Crystal Structure, and Reactivity toward Carbene Transfer and Hydrogen Atom Transfer Reactions Hai-Xu Wang, †  Qingyun Wan, †  Kai Wu, †  Kam-Hung Low, †  Chen Yang, †  Cong-Ying Zhou, † Jie-Sheng Huang, * , †  and  Chi-Ming Che * , † , ‡ † State Key Laboratory of Synthetic Chemistry and Department of Chemistry, The University of Hong Kong, Pokfulam Road, Hong Kong SAR, China ‡ HKU Shenzhen Institute of Research & Innovation, Shenzhen, China J. Am. Chem. Soc. , 2019 , 141(22) , 9027-9046 Chi-Ming Cheらのグループによる研究成果で、2価ルテニウムポルフィリン錯体にジアゾキノンを反応させることでキノイドカルベン錯体を合成、単離し結晶構造解析に成功しました(図1)。また、単離したキノイドカルベン錯体はCarbene transfer反応および水素原子引き抜き反応に置いて活性であることを明らかにしており、速度論やDFT計算によって反応機能に関する考察も行っています。筆者らは量論反応だけでなく触媒反応にも展開しています。 図1. ジアゾキノンとRuポルフィリン錯体からのキノイドカルベン錯体の生成 背景 単離されたキノイドカルベン錯体の報告例はD. MilsteinらによるRu錯体とFe錯体の2例しか知られておらず、そのいずれもピンサー型配位子にカルベン部位が組み込まれた錯体でした。 図2. Milstein らが報告したキノイドカルベン錯体 キレート配位する部位を持たない、より一般的なカ

Highly Reactive Manganese(IV)-Oxo Porphyrins Showing Temperature-Dependent Reversed Electronic Effect in C−H Bond Activation Reactions

Highly Reactive Manganese(IV)-Oxo Porphyrins Showing Temperature-Dependent Reversed Electronic Effect in C−H Bond Activation Reactions Mian Guo, Mi Sook Seo, Yong-Min Lee, Shunichi Fukuzumi, and Wonwoo Nam J. Am. Chem. Soc. XXXX, XXX, XXX−XXX  この論文は、マンガンオキソポルフィリン錯体Mn(IV)(O)(TMP)( 1 )、Mn(IV)(O)(TDCPP)( 2 )を用いることで、反応不活性なC-H結合の活性化に成功したことを報告しています。  興味深いことに、高温条件(0℃)において、 2 よりも電子リッチである 1 の方が高い活性を示しました。しかし、低温条件(-40℃)においては、 1 と 2 の活性が逆転し、 2 の方が高い活性を示すことを見出しました。この報告は、マンガンオキソポルフィリン錯体の高い活性と、C-H結合の活性における温度依存性を観測した初めての例です。 また、この実験はハロゲン溶媒中で行われ、アルカンのC-H結合は活性化されたのち、ハロゲン化物を与えることが確認されました。  筆者らは今後、マンガンオキソポルフィリン錯体をもちいて触媒的な反応を行い、様々な金属中心をもつヘム、ノンヘム錯体のエンタルピー-エントロピー補償効果について検討を行うと述べています。

Seven Clues to Ligand Noninnocence: The Metallocorrole Paradigm

Sumit Ganguly and Abhik Ghosh Acc. Chem. Res. 2019 , 52 , 2003−2014  この論文は、配位子がノンイノセントか否かについてさまざまなコロール錯体を8種の測定方法を用いて分析した結果をまとめています。 その結果、光学分光法、DFT計算、X線構造解析がより信憑性の高い測定であることを見出しました。電気化学的測定についても、広く適用可能ではありますが、問題があります。ノンイノセントなコロール錯体は 高い還元電位を示す傾向がありますが、高い還元電位は必ずしもノンイノセントなコロール錯体を意味するわけではなく、ある種の高原子価金属中心もまた極めて高い電位で金属中心還元を受けることがあります。  このように新たな系に直面した場合は、少なくとも3,4つの測定方法を用いることで、配位子がノンイノセントかどうかについて論理的に証明する必要があると筆者らは述べています。