質問
UVの吸収ピークとアニオン配位子との関連性はあるのか。
回答
アニオン配位子とUVの吸収ピークに関連性が見られました。
それを説明します。
そのためにはまず初めに600 nm付近の吸収がどのような吸収なのかを明らかにする必要があります。
他の論文で同じ配位子を有するCu(III)(OH)の錯体のUVスペクトルに対して600 nm付近の吸収が配位子からCuのd(x^2-y^2)の遷移に由来すると報告されていました。
そのため今回のNi(III)の錯体に関しても配位子からNiへの遷移だと考えられます。
しかし、Cu(III)はd8であるのに対してNi(III)はd7であるという違いがあります。
以下のエネルギー準位図から低スピン状態の平面型ニッケル(III)錯体に関しては、d(xy)のSOMOに対しての遷移であると考えられます。
次にNi(III)に結合したモノアニオンとUVの吸収波長の関係をまとめます。
UVの吸収波長が小さい順(LMCTのエネルギー準位差が大きい順)に列挙すると以下のようになります。
モノアニオン : 吸収波長 (nm)
OAc^-1 (酢酸イオン) : 510 nm
HCO3^-1 (炭酸水素イオン) : 520 nm
NO3^-1 (硝酸イオン) : 560 nm
Cl^-1 (塩化物イオン) : 600 nm
よって酢酸イオンを有するNi(III)錯体のLMCTのエネルギー差が最も大きく、塩化物イオンの時に最もエネルギー差が小さくなるということが分かります。
次に配位子がどのように変わるとエネルギー的にどのような変化が生じるかを説明します。
今回配位子のHOMOから金属のSOMOへの遷移だと先ほど述べました。
モノアニオンの配位子が変わることによってエネルギー準位が最も変動するのは金属の軌道のエネルギー準位だと考えられます。その理由はモノアニオンの配位子は金属に直接結合しているからです。配位子のHOMOの軌道よりも少しエネルギー準位が高い金属のSOMOがあると考えると、モノアニオン配位子がより強く金属に結合する方がSOMOの軌道が不安定化し。エネルギーギャップが大きくなると考えられます。
モノアニオンの配位子がより金属に強く配位すると、エネルギーギャップが大きくなると説明しましたが、どのようにモノアニオンの配位子に対して強く金属に結合するかを評価できるかを説明します。
それはモノアニオンを共役塩基とする酸のpKaで判断できると考えました。
以下に上記のモノアニオンを共役塩基とする酸のpKaを示します。
酸 : pKa(水中)
HOAc (酢酸) : 4.7
H2CO3 (炭酸水素) : 3.5
HNO3 (硝酸) : -1.3
HCl (塩酸) : -8.0
となります。pKaが小さいものほど(酸性度が高いもの)、共役塩基の求核性が低く金属に対して弱い結合となり、pKaが大きいものほど(塩基性度が高い)、共役塩基の求核性は高く金属に対して強い結合を形成すると考えられます。
以上よりpKaが最も小さい塩化物イオンを有する時、エネルギーギャップが小さくなり長波長の吸収を持ち、pKaが最も高い酢酸イオンを有する時、エネルギーギャップが大きくなり短波長の吸収が見られると考えられます。
UVの吸収ピークとアニオン配位子との関連性はあるのか。
回答
アニオン配位子とUVの吸収ピークに関連性が見られました。
それを説明します。
そのためにはまず初めに600 nm付近の吸収がどのような吸収なのかを明らかにする必要があります。
他の論文で同じ配位子を有するCu(III)(OH)の錯体のUVスペクトルに対して600 nm付近の吸収が配位子からCuのd(x^2-y^2)の遷移に由来すると報告されていました。
そのため今回のNi(III)の錯体に関しても配位子からNiへの遷移だと考えられます。
しかし、Cu(III)はd8であるのに対してNi(III)はd7であるという違いがあります。
以下のエネルギー準位図から低スピン状態の平面型ニッケル(III)錯体に関しては、d(xy)のSOMOに対しての遷移であると考えられます。
次にNi(III)に結合したモノアニオンとUVの吸収波長の関係をまとめます。
UVの吸収波長が小さい順(LMCTのエネルギー準位差が大きい順)に列挙すると以下のようになります。
モノアニオン : 吸収波長 (nm)
OAc^-1 (酢酸イオン) : 510 nm
HCO3^-1 (炭酸水素イオン) : 520 nm
NO3^-1 (硝酸イオン) : 560 nm
Cl^-1 (塩化物イオン) : 600 nm
よって酢酸イオンを有するNi(III)錯体のLMCTのエネルギー差が最も大きく、塩化物イオンの時に最もエネルギー差が小さくなるということが分かります。
次に配位子がどのように変わるとエネルギー的にどのような変化が生じるかを説明します。
今回配位子のHOMOから金属のSOMOへの遷移だと先ほど述べました。
モノアニオンの配位子が変わることによってエネルギー準位が最も変動するのは金属の軌道のエネルギー準位だと考えられます。その理由はモノアニオンの配位子は金属に直接結合しているからです。配位子のHOMOの軌道よりも少しエネルギー準位が高い金属のSOMOがあると考えると、モノアニオン配位子がより強く金属に結合する方がSOMOの軌道が不安定化し。エネルギーギャップが大きくなると考えられます。
モノアニオンの配位子がより金属に強く配位すると、エネルギーギャップが大きくなると説明しましたが、どのようにモノアニオンの配位子に対して強く金属に結合するかを評価できるかを説明します。
それはモノアニオンを共役塩基とする酸のpKaで判断できると考えました。
以下に上記のモノアニオンを共役塩基とする酸のpKaを示します。
酸 : pKa(水中)
HOAc (酢酸) : 4.7
H2CO3 (炭酸水素) : 3.5
HNO3 (硝酸) : -1.3
HCl (塩酸) : -8.0
となります。pKaが小さいものほど(酸性度が高いもの)、共役塩基の求核性が低く金属に対して弱い結合となり、pKaが大きいものほど(塩基性度が高い)、共役塩基の求核性は高く金属に対して強い結合を形成すると考えられます。
以上よりpKaが最も小さい塩化物イオンを有する時、エネルギーギャップが小さくなり長波長の吸収を持ち、pKaが最も高い酢酸イオンを有する時、エネルギーギャップが大きくなり短波長の吸収が見られると考えられます。
コメント
ただ、銅とことなり、Niではdxyが空になったからといって、dxy←Lが出てくるとは限りません。dx2-y2←Lで考えれば良いのではないでしょうか。
dx2-y2のほうが、リガンドのσ性の電子供与の影響を強く受けるはずですし。