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構造生物学:タンパク質は、超分子が自己集合する危険にさらされながら進化する

Hector Garcia-Seisdedos, Charly Empereur-Mot, Nadav Elad & Emmanuel D. Levy

Nature 548, 244–247 (10 August 2017) doi:10.1038/nature23320
Received 28 July 2016 Accepted 20 June 2017 Published online 02 August 2017

https://www.nature.com/nature/journal/v548/n7666/pdf/nature23320.pdf
[解説記事] http://www.nature.com/nature/journal/v548/n7666/fp/nature23320_ja.html?lang=ja

タンパク質の、グチャグチャとしてとらえどころのない形、みなさんは好きですか?
僕は学部学生の時から嫌いでした。どこから眺めてやればいいかわからない!

でも、タンパク質の形が「きたない」のには理由があるそうです。
先日、ATPは生体内のエネルギー通貨としての機能だけではなく、タンパク質の凝集を防いでいる、という論文がNature誌にでましたが、超高濃度で分子がひしめく細胞内では、タンパク質の凝集は機能不全、つまり死を招く、大変危険な現象です。
脳細胞におけるアミロイドの蓄積も、その範疇の1つでしょう。
タンパク質を一からデザインしてやろうという、先駆的な試みを行っているワシントン大のデイビッドベイカーらも、凝集しないタンパク質を設計するのは大変だ、と何処かに書いてました。
タンパクチームの皆さんは、一般的なタンパク質はほんの少しの環境変化で、すぐに沈殿してしまうということを藤枝先生に、繰り返し言われていることと思います。
この、凝集を防ぐために、タンパク質は凝集しにくい非対称性な構造を持っているという考え方を提示する、大変興味深い研究です。

[日本語アブスト引用]_____________________
タンパク質が自己集合して対称的な複合体を形成する現象は、生命の全ての界で広く見られる。対称的な構造を持つ複合体は、独特な幾何学的特性、また機能的特性を持つが、内包する対称性がリスクをもたらすこともある。鎌状赤血球症では、ヘモグロビンの対称性が変異の影響を増幅し、有害な微細繊維形成のきっかけとなる。今回我々は、こうした機構の普遍性や、タンパク質の幾何学的構造との関連について調べた。まず、大腸菌( Escherichia coli )由来の12種類の対称的複合体に、表面の疎水性を高めるという影響だけを及ぼすように設計した点変異を導入したところ、12種類の全てが変異導入に応じて in vitro で超分子集合体を形成し、また出芽酵母( Saccharomyces cerevisiae )で異種発現させると in vivo でも超分子集合体を形成した。4つの例では、単一点変異の導入に応じて in vivo でマイクロメートル長の微細繊維が形成されたことは注目すべきである。生物物理学的測定と電子顕微鏡観察により、変異体は折りたたまれた状態で自己集合していて、そのためアミロイドに似た集合ではないことが判明した。73の変異体の構造を調べることにより、幾何学的形状から予測可能な、超分子集合の起きやすいホットスポットが突き止められた。さらに7471個の対称的複合体の構造解析により、ホットスポットの形状が持つ危険性が親水性残基により化学的に緩衝されていることが明らかになり、これらの領域が誤集合するのを防ぐ機構が示唆された。従って、点変異は折りたたまれたタンパク質が自己集合してさらに高次の構造をとることを頻繁に誘発しかねない。このような可能性に対しては、負の選択が働いてバランスをとっている。また、こうした自己集合能は、生細胞中で作るナノ材料の設計に使えるだろう。
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対称性が高いと、同じようなものと固まって沈殿してしまうわけです。
みなさんも、「対称性が低くて、凝集、沈殿しない」ような人材になってください。



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