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6月, 2018の投稿を表示しています

180606_雑誌会回答(矢野)

Mechanistic Insights into the Enantioselective Epoxidation of Olefins by Bioinspired Manganese Complexes: Role of Carboxylic Acid and Nature of Active Oxidant Junyi Du †‡ , Chengxia Miao † , Chungu Xia † , Yong-Min Lee § , Wonwoo Nam * †§ , and Wei Sun * †   Q .カルボン酸として 2-ethylhexanoic acid (EHA) を用いた理由   A.      K.P.Bryliakov と E.P.Talsi ら ( K.P.Bryliakov , ACS Catal . 2012 , 2 , 1196 ) により、今回の実験で用いた錯体と類似した鉄やマンガン二価の四座配位錯体と H 2 O 2 を用いたカルコンのエポキシ化において、加えたカルボン酸が立体的に嵩高いほどエナンチオ選択性は増加することが報告されています。用いたカルボン酸は 8 種類で、以下の順でエナンチオ選択性の増加がみられました。 ギ酸<酢酸< n- ブタン酸= n- ペンタン酸= n- ヘキサン酸<イソブタン酸< tert- ペンタン酸< 2- エチルヘキサン酸   オレフィンのエポキシ化において、錯体にカルボン酸が配位した活性な金属オキソ種に基質が近づく際に、カルボン酸の立体障害が大きいほど基質の近づく方向が制限されるためにこのような結果が得られたと考えられます。   従って、今回の実験では最も大きいエナンチオ選択性が得られる 2- エチルヘキサン酸を用いたと考えられます。

Effect of Active Sites Structure on Activity of Copper Mordenite in Aerobic and Anaerobic Conversion of Methane to Methanol

Vitaly L. Sushkevich,* [a]  Dennis Palagin, [a]  Jeroen A. van Bokhoven* [a,b] [a] Laboratory for Catalysis and Sustainable Chemistry, Paul Scherrer Institut, 5232 Villigen PSI, Switzerland [b] Institute for Chemistry and Bioengineering, ETH Zurich, Vladimir-Prelog-Weg 1, 8093 Zürich, Switzerland First published: 14 May 2018 https://doi.org/10.1002/anie. 201802922 銅イオン交換ゼオライト(CuMOR)を用いたメタン酸化反 応の論文です。 筆者らは昨年、ゼオライト中に生じる銅二核種による、水を酸化剤としたメタンからメタノールへの嫌気性酸化反応を報告しています。 https://doi.org/10.1126/science.aam9035 今回の論文では、Si/Al比の異なるゼオライトを用いることで 銅の導入率を制御し、その反応性の違いについて検討を行っていま す。 各種分光測定、DFT計算等により、銅密度の高いCuMORで は銅二核種が形成されメタンの嫌気性酸化と好気性酸化双方が起こ るのに対し、 銅密度の低いCuMORでは銅単核種により好気性酸化のみが生じ ることを示しました。 6/13の雑誌会で紹介する予定です。

180516_雑誌会解答(福井)

Q .   一番下の CV は何を表しているのか ? A.    これは -40 ℃、アセトニトリル中における TBA-Cl の CV を表しており、他の CV と異なり上に凸の部分が観測できません。このような形となる理由については、 Cl - の状態における電極電位を正方向に掃引することで Cl ・ +e - ⇄ Cl - の反応が左方向に進み酸化波を生じるけれど、この平衡反応によって生じた Cl ・ が二つ合わさって Cl 2 が生成するため、平衡反応が右方向には進まないことに起因していると考えられます。 Q .   なぜTBA-ClのCVを載せているのか ? A. 標準電極電位の値を比較すると E ゜ (OCl ・ /OCl - )=1.15V vs SCE 、 E ゜ (Cl ・ /Cl - )=2.19V       vs SCE 、 E ゜ (Cl 2 /Cl - )=1.116V vs SCE であり、 E ゜ (OCl ・ /OCl - ) 、 E ゜ (Cl 2 /Cl - ) の値が E     (I/II) の値と近い値をとっているため温度や溶媒条件を変えることによって CompI を      CompII に還元できる可能性があります。しかし、過剰の次亜塩素酸塩や基質の存在下   においては CompI と塩化物との反応はほとんど起こりません。これは、 CompI と次亜   塩素酸塩や基質との反応に比べてかなり遅い反応であることによります。つまり次亜    塩素酸の存在下では次亜塩素酸塩によって CompI が還元されます。よって Figure S1 の   一番下の CV は、 (Cl ・ /Cl - ) について電極電位を正方向に掃引しても還元波が出現しない   ということを視覚的に示すために載せているのだと思います。

2018/06/06 雑誌会回答

Q. Ru 7配位がなぜとれるのか A. 本論文中では、電子供与性の高い配位子(carboxylateなど)を用いることでRu5価を安定化させ、7配位を可能にすると記述がありました。また、先行研究において以下のような錯体について、O-Ru-Oの角度が123°で本来の平面4配位の90°より十分に大きいためにオキソが7配位目として侵入することが可能であるとの記述がありました。 以上のことから、7配位錯体を得るためには、中心金属の有効核電荷を増大させるために十分な電子供与性を持ち、また7配位目の配位元素が侵入できるだけの空間的な余裕のある配位子設計が重要であると考えられます。 ただし、今回の系で用いられた配位子では電子供与性が高すぎたために、オキソ種では7配位が維持できなくなっています。そのためオキソ種の7配位を安定化するためには配位子の電子供与性は高くしすぎない点に注意する必要があると考えられます。

180516_雑誌会回答(新家)

Q.先行研究との違いで生じる結合の距離とそれによる反応性の差について A. 配位子のピリジンをフェノラートに変えることで、これらとFe間の結合が強くなり(結合長:2.19Å→1.96Å)、その結果として向かい側にあるピリジンとFe間の結合距離は長くなります(2.378Å→2.473Å)。この効果がラジカル反応の際にメトキシ基を外すのに役立ち、反応性を向上させているのだと思います。 Q.錯体 2 と基質の反応のときのUV-vis Spectrumにおいてみられる波形は何によるものなのか A.  570 nm付近に見られるピークは錯体 2 によるもので反応に錯体 2 が消費されることで減少していきます。  一方510 nm付近に見られる波状のピークは基質として加えたトリメチルラジカルによるもので同様に反応によって消費されていきます。錯体 2 のピークと異なり反応後もピークが残っているのは今回の反応が錯体と基質で1:1で反応するのに対し反応開始時に錯体よりも基質を多めに入れているため反応終了後も基質が残っているからだと思います。

Arylruthenium(III) Porphyrin-Catalyzed C−H Oxidation and Epoxidation at Room Temperature and [RuV(Por)(O)(Ph)] Intermediate by Spectroscopic Analysis and Density Functional Theory Calculations

Ka-Pan Shing, †  Bei Cao, †  Yungen Liu, †  Hung Kay Lee, ‡  Ming-De Li, †  David Lee Phillips, † Xiao-Yong Chang, †  and Chi-Ming Che * , † , § † Department of Chemistry and State Key Laboratory of Synthetic Chemistry, The University of Hong Kong, Pokfulam Road, Hong Kong, China ‡ Department of Chemistry, The Chinese University of Hong Kong, Shatin, New Territories, Hong Kong, China § HKU Shenzhen Institute of Research and Innovation, Shenzhen 518053, China Abstract 上図のようなポルフィリン系配位子を有するRu錯体[Ru III (TDCPP)(Ph)(OEt 2 )]を触媒に用いたアルカンの酸化反応およびアルケンのエポキシ化反応の論文です。 反応活性種として想定されるRu(V)oxo錯体の同定を様々な分光学的手法および計算化学的手法を用いて行っています。 これまでポルフィリン系配位子を有するRu-oxo錯体の分光学的な同定には課題が残っていました。この課題を解決するため今回の論文では、Ru錯体の軸配位子にフェニル基を有する錯体の合成を試みました。フェニル基のカルボカチオンによる大きなσ供与性により、軸配位子がCOやClの場合と比べて直接Ru-oxo錯体が観測されることが期待されます。 6/20雑誌会で紹介する予定です。

180530_雑誌会回答(藤本)

Q. 水素原子引き抜きにおける立体電子効果とは A. 雑誌会では、 生成物のラジカルの電子がC–O 結合におけるσ * 軌道と非局在化することで安定化していると述べましたが、少し異なっていましたので訂正します。結論から述べますと、ラジカルが酸素上の lone pair と非局在化することによる安定化がおこります。 K. U. Ingold ら ( K. U. Ingold,  et al. ,  J. Am. Chem. Soc. 1981 ,  103 , 609 ) によると、 THF などのエーテル類における、 sp 3 混成である 酸素上の二つの lone pair が等価ではなく非等価である と述べています。これは、それぞれの lone pair のエネルギーを紫外光電子分光法 (UPS) で測定した結果、異なる値を示したためだと著者らは述べています。そのため、一方の lone pair は「 pure  p -type orbital 」であり、もう一方は「 roughly  s -type orbital 」となっています。さらに、 UPS により p -type の軌道の方が s -type に比べ 10 eV (230 kcal/mol)  以上も高エネルギーの位置にあることが分かり、このエネルギーがラジカル ( 不対電子 ) のもつエネルギーに近いため、非局在化する ことでより安定化すると述べてありました。この p -type の lone pair と、ラジカルとなる C–H 結合の二面角 (θ) が小さければ小さいほど、非局在化しやすいのでより安定化し、反応性が上がります。 THF の場合は θ= 30º  となっており、非常に近い位置にあることで水素原子引き抜きに対する反応性が大きく向上しました。

180523_雑誌会回答(伊藤)

Q. ナフタレンの水酸化の位置選択制について。 A. 今回、ナフタレンのHOMOの軌道について(電子が取られてナフタレンラジカルカチオンが生成して反応が始まるので)考えると、ナフタレンの軌道はベンゼンとブタジエンのπ軌道の相互作用から考えることができます。 ブタジエンの軌道 2 (青) は反対称でかつエネルギーが高く不安定であるため、この軌道がナフタレンのHOMOの主成分となり、ベンゼンの反対称軌道 3,5 (赤) との相互作用を考える必要があることが予想されます。 例えば、軌道 3 と軌道 2 からできる軌道は同符号同士の重なりから結合性が増加し軌道 3 より安定化した軌道Aと逆の理論から不安定化した軌道Bが構成されます。 また第二段階として軌道Bと軌道 5 の相互作用を考えますが、軌道Bは被占軌道で軌道 5 は空軌道であることからHOMO軌道への寄与は軌道Bの方が格段に大きいことがわかります。それゆえ、ナフタレンのHOMO軌道への寄与は単体ブタジエンと同じであることになり、α位がβ位よりも大きいという風になります。 そのため本文中でも示したように1,4-ジナフトールを経て、1,4-ナフトキノンが酸化生成物として得られるのが妥当だと言えます。

18/05/30 雑誌会回答 島岡

Sc 3+  (or HClO 4 ) Activation of a Nonheme Fe III − OOH Intermediate for the Rapid Hydroxylation of Cyclohexane and Benzene Subhasree Kal, Apparao Draksharapu, and Lawrence Que, Jr. * Department of Chemistry and Center for Metals in Biocatalysis, University of Minnesota, 207 Pleasant Street SE, Minneapolis, Minnesota 55455, United States J. Am. Chem. Soc.  2018, 140, 5798 − 5804 ◯ルイス酸とオキソの相互作用について。 ルイス酸であるSc3+がどのような作用をしているかは本文中に記載はなく、議論がされていませんでした。 一方でSc3+とMnV=Oに関連したきょういぶ論文があったので以下簡単に紹介します。 A Manganese(V) − Oxo Complex: Synthesis by Dioxygen Activation and Enhancement of Its Oxidizing Power by Binding Scandium Ion Seungwoo Hong, †  Yong-Min Lee, †  Muniyandi Sankaralingam, †  Anil Kumar Vardhaman, † Young Jun Park, †  Kyung-Bin Cho, †  Takashi Ogura, ‡  Ritimukta Sarangi, * , §  Shunichi Fukuzumi, * , † and Wonwoo Nam * , † J. Am. Chem. Soc.  2016, 138, 8523 − 8532 一方で参考になりそうな論文があったので...