abstraction
本論文は、分子内に水素結合を持つTMPA配位子を用いて銅錯体を合成し、単核銅スーパーオキソ錯体の安定化を行なった論文です。pivalamido(=NHCOC(CH3)3)を置換基として用いた際に、最も高い単核銅スーパーオキソ錯体の安定性を示し、さらに、フェノール系及び弱いC-H結合を有する外部基質との反応において最も高い反応性を示したことを報告していました。
Q.1.単核銅スーパーオキソ錯体の水素結合に関する解釈について
まず、単核銅酸素錯体には、side-on型とend-on型の二種類があり、それぞれのMOは下のようになっています。ここでは、end-on型スーパーオキソ錯体について議論しているため、右側のMOについて考えます。
Fig. Molecular orbital diagram of copper(II) superoxide bonding
まずはじめに、DFT計算による結果より、proximalのO原子に水素結合をする際のエネルギーがdistalのO原子に対してよりも1kcal/mol程度安定になるとされています。
ここで水素結合は、Cu-O-O平面に対してπ*σ軌道(Cu-O結合を形成している、二つの電子によって占められている軌道)で結合しています。そうすることによって、proximalのO原子のδ-性が相対的に大きくなり、Cuとの結合力が強くなることでν(Cu-O)が大きくなります。π*ν軌道は電子を一つしか有していないため、水素結合を起こした際の安定性はπ*σ軌道に比べると小さくなります。
Q.2. BArF系のカウンターアニオンを用いる意義
本論文をはじめ、近年多くの金属錯体の触媒反応に関わる研究チームがカウンターアニオンに酸化されにくく、結晶性の高いフッ素系アリールアニオンを用いています。活性種の溶液や固体状態での安定化に大きく寄与し、結晶化を成功させるための一つの選択肢であると考えています。合成条件等は下の論文を参考にしてください。
T. David Harris. Inorg. Chem. 2015, 54, 359−369
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