Spin Interconversion of Heme-Peroxo-Copper Complexes Facilitated by Intramolecular Hydrogen-Bonding Interactions
ヘムパーオキソ銅錯体の分子内水素結合によりロースピン状態が安定化され、温度に依存したSCO(スピンクロスオーバー)がみられたことを、紫外可視吸収スペクトル、2H NMR、共鳴ラマンスペクトル、DFT計算により確認した論文です。5配位ハイスピン状態 (5C HS) から6配位ロースピン状態 (6C LS) になる際、溶媒のMeTHFが配位した6配位ハイスピン状態 (6C HS) を経ることが確認されています。
Q. 水素結合の形成は温度を下げるとエントロピー的に不利になるのではないか
まずエントロピー変化については、どの置換基をもつ錯体においても溶媒の結合による寄与が大きく、その次にスピン状態の変化の寄与があり、サイドオンからエンドオンへの構造の変化による影響はほとんどないといえます。
Andrew
W. Schaefer,†,§ Melanie A. Ehudin,‡,§ David A. Quist,‡ Joel A. Tang,‡
Kenneth D. Karlin,*,‡ and Edward I. Solomon*,†
DOI: 10.1021/jacs.9b00118
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 4936−4951Q. 水素結合の形成は温度を下げるとエントロピー的に不利になるのではないか
Q.
5C HSから6C LSへの変化の際、サイドオンからエンドオンへの構造の変化によるΔSの変化はどのくらいあるか
エンタルピー変化については、5C HSから6C HSへ変化する際にNH2TMPAにおいて負に大きくなっており、これはNH2TMPA錯体の分子内水素結合によりエンドオンの構造が安定化されるためであると考えられます。
質問にもありましたように、温度を下げるとエントロピーが増大する方が有利になる、つまり5C HSが生成するように思えますが、今回NH2TMPA錯体において温度を下げるとLSが生成したのは、分子内水素結合によるLSの安定化が大きい(ΔHが負に大きい)ため、ΔG = ΔH − TΔSにおいて、温度を下げることでTΔSの項の絶対値がΔHの項に比べて小さくなり、エンタルピー支配によりLSが生成したといえます。
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