Jacob T. Edwards, Rohan R. Merchant, Kyle S. McClymont, Kyle W. Knouse, Tian Qin, Lara R. Malins, Benjamin Vokits, Scott A. Shaw, Deng-Hui Bao, Fu-Liang Wei, Ting Zhou, Martin D. Eastgate & Phil S. Baran
Nature (2017) doi:10.1038/nature22307
Received 23 December 2016 Accepted 20 March 2017 Published online 19 April 2017
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature22307.html
サポーティング
https://www.nature.com/article-assets/npg/nature/journal/vaop/ncurrent/extref/nature22307-s1.pdf
スクリプス研究所、バラングループの論文です。
タイトルは「脱カルボキシル化アルケン化」と、とても短いものになっていることからも分かるように、教科書に一項目を書き加えんばかりのゴツい仕事です。
マクマリーにも出てくる、最も基本的なビニル基導入反応はWittigですが、いわゆるカップリング反応(溝呂木-ヘック、右田-小杉-スティル、根岸など)、そしてグラブス、ホベイダ、シュロックらの、メタセシス反応など、さまざまな方法が開発されてきました。
今回、バランらが報告したのは、カルボキシル基を、脱炭酸を促進化させる化合物とエステル化させた後、亜鉛化されたオレフィンと反応させると言う方法です(下のスキーム)。触媒として、ニッケルのビピリジン錯体を用いています。
スキーム1. 二段目の生成物は、私の予想。この論文では反応の有用性にひたすら焦点を当てており、機構などにはあまりフォーカスしていない。先行研究をたどれば、もっともらしい反応機構もちゃんと書いてあると思います。
この反応では、押しとなる点がいろいろありすぎて、余すことなく書ききれないのですが、まず、汎用性のとても広いカルボン酸をカップリングに用いることができる点が、これまでなかったポイントです。また、亜鉛やニッケルなど、比較的チープなメタルしか使わず、スケールアップもちゃんとできることを示しています。
基質にハロゲンや、ルイスベーシック(金属に配位してしまう)なヘテロ元素があっても反応は効率的に進行しますし、立体も保持されたまま進行します。
特筆すべきはアルケンのE、Z体の作り分けができる点で、これはしばしば問題になるポイントですが、この反応では選択的に狙ったものを作ることができます。
筆者らは、この反応の強力さを立証するため、天然物や医薬品を含めて60以上の化合物合成のデモンストレーションをしています。ゴリゴリ感が半端ありません。
今回の反応系を用いることで、従来7ステップかかっていたステロイドの合成が2ステップまで短縮できる、という感じで効果的に反応の有用性をアピールしています(下スキーム a) 。
天然物や医薬の合成に、開発した反応を応用するのは昨今のトレンドですが、この報告では無保護のペプチドにも反応を適用しているところなんかも、これからの流れになる感じがします。
論文のページを開いてみると、まず構造式の多さに圧倒されると思いますが、サポーティングにも全く手を抜いていません。有機亜鉛試薬はビニルのグリニャールから、メタルの交換で作っているのですが、その手順を写真入りで懇切丁寧に説明しています。カップリング反応を使っている人は、写真を見るだけでも気づくような工夫があるのではないでしょうか。是非参考にしてみてください。
個人的には、酸化反応にも使われることのある、フタルイミドが使われているとこが興味ぶかかったです。窒素状のラジカルが、非常に安定なのがポイントなのかなと思います。
本研究は、伊東研のターゲットである酸化反応と直接バッティングするものではありませんが、アルケンへの官能基導入を行うテーマの方は、サブストレートの適用範囲を広げてくれる点で重要です。また、アルカン酸化を行う方も、一級炭素を自在に酸素化ができるようになれば、そこにビニル基を生やすことができるようになったわけで、「化学物質を効率的に作る」という観点からは、地続きになっている研究だと思います。
Nature (2017) doi:10.1038/nature22307
Received 23 December 2016 Accepted 20 March 2017 Published online 19 April 2017
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature22307.html
サポーティング
https://www.nature.com/article-assets/npg/nature/journal/vaop/ncurrent/extref/nature22307-s1.pdf
スクリプス研究所、バラングループの論文です。
タイトルは「脱カルボキシル化アルケン化」と、とても短いものになっていることからも分かるように、教科書に一項目を書き加えんばかりのゴツい仕事です。
マクマリーにも出てくる、最も基本的なビニル基導入反応はWittigですが、いわゆるカップリング反応(溝呂木-ヘック、右田-小杉-スティル、根岸など)、そしてグラブス、ホベイダ、シュロックらの、メタセシス反応など、さまざまな方法が開発されてきました。
今回、バランらが報告したのは、カルボキシル基を、脱炭酸を促進化させる化合物とエステル化させた後、亜鉛化されたオレフィンと反応させると言う方法です(下のスキーム)。触媒として、ニッケルのビピリジン錯体を用いています。
スキーム1. 二段目の生成物は、私の予想。この論文では反応の有用性にひたすら焦点を当てており、機構などにはあまりフォーカスしていない。先行研究をたどれば、もっともらしい反応機構もちゃんと書いてあると思います。
この反応では、押しとなる点がいろいろありすぎて、余すことなく書ききれないのですが、まず、汎用性のとても広いカルボン酸をカップリングに用いることができる点が、これまでなかったポイントです。また、亜鉛やニッケルなど、比較的チープなメタルしか使わず、スケールアップもちゃんとできることを示しています。
基質にハロゲンや、ルイスベーシック(金属に配位してしまう)なヘテロ元素があっても反応は効率的に進行しますし、立体も保持されたまま進行します。
特筆すべきはアルケンのE、Z体の作り分けができる点で、これはしばしば問題になるポイントですが、この反応では選択的に狙ったものを作ることができます。
筆者らは、この反応の強力さを立証するため、天然物や医薬品を含めて60以上の化合物合成のデモンストレーションをしています。ゴリゴリ感が半端ありません。
今回の反応系を用いることで、従来7ステップかかっていたステロイドの合成が2ステップまで短縮できる、という感じで効果的に反応の有用性をアピールしています(下スキーム a) 。
天然物や医薬の合成に、開発した反応を応用するのは昨今のトレンドですが、この報告では無保護のペプチドにも反応を適用しているところなんかも、これからの流れになる感じがします。
論文のページを開いてみると、まず構造式の多さに圧倒されると思いますが、サポーティングにも全く手を抜いていません。有機亜鉛試薬はビニルのグリニャールから、メタルの交換で作っているのですが、その手順を写真入りで懇切丁寧に説明しています。カップリング反応を使っている人は、写真を見るだけでも気づくような工夫があるのではないでしょうか。是非参考にしてみてください。
個人的には、酸化反応にも使われることのある、フタルイミドが使われているとこが興味ぶかかったです。窒素状のラジカルが、非常に安定なのがポイントなのかなと思います。
本研究は、伊東研のターゲットである酸化反応と直接バッティングするものではありませんが、アルケンへの官能基導入を行うテーマの方は、サブストレートの適用範囲を広げてくれる点で重要です。また、アルカン酸化を行う方も、一級炭素を自在に酸素化ができるようになれば、そこにビニル基を生やすことができるようになったわけで、「化学物質を効率的に作る」という観点からは、地続きになっている研究だと思います。
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