・何故曲がった構造なのか
本論文や引用文献、ニトリド錯体のレビューペーパーを確認したが曲がっていることの明確な理由やメリットについて詳しい議論がなかったため、考察した理由を述べる。
結晶構造を見ると、Ru同士がピラゾールと窒素原子によって架橋されている。Ruは6配位であり八面体構造をとりたがる作用と、ピラゾール架橋の2つのsp2窒素によって角度固定されている作用の2つがある。これらの作用により窒素架橋が直線で存在することはどこかで歪みが起こるため安定ではない。そのため一番フレキシブルと考えられる窒素架橋が曲がった構造になると考えられる。
・曲がっていることのメリット
ポルフィリン類似体モデルの鉄二核X架橋錯体[(N4)Fe–X–Fe(N4)](X=O,N)において、N架橋は直線形が多く、O架橋は曲線形が多い理由は
Fe–X–Fe の分子軌道において、架橋が曲がると反結合性軌道のエネルギー順位が低下すると同時に占有されている非結合性軌道のエネルギー順位が上昇する。
X=Oの時は鉄のd電子が2つ、X=Nの時はd電子が1つずつ反結合性軌道に入るため、X=Oの時は反結合性軌道の安定化の度合いが大きく、曲がった構造の方がエネルギー的に有利になるが、X=Nの時は反結合性軌道の安定化よりも非結合性軌道の不安定化の方が大きくなり、直線形の方がエネルギー的に有利になる。
鉄と同族元素のルテニウムでも以上と同様のことが言えると考えられるため、本来は直線形が最も安定であるはずであるが、今回は立体障害・配位構造によって物理的に直線形が不可能な構造になっている。そのため、窒素原子がsp2性を帯び、不安定化される。この不安定化により、今回のアンモニア生成できるまでに至ったと考えられる。
・アンモニア生成のメカニズム(他に活性種は存在するのか)・他のニトリド錯体でのアンモニアの生成報告例
アンモニア生成のメカニズムについては本論文で全く記述がなかったため、不明である。
他のニトリド錯体でのアンモニアの生成報告例については、二核錯体ではないが、Natureの’’Ammonia formation by metal–ligand cooperative hydrogenolysis of a nitrido ligand(2011)’’の末端ニトリドが水素と反応して高効率でアンモニアを生成することを報告している。
二核ニトリド架橋錯体においてはアンモニアの生成報告例は、調べた限り見つからず、初の報告例であると考えられる。
・アジ化ナトリウムを加える理由
求核剤としてナトリウムアジドを使うことで、出発物質のRu2(NO)2の片方のニトロシルを脱離させ、モノニトロシル錯体を合成し、本来の目的のN-Nカップリング反応につなげるため。
(二核Ruニトロシル錯体を作ろうとして一酸化窒素と反応させると、モノニトロシル化は起こらず、全てジニトロシル化が起こってしまう。また、ジニトロシル錯体はそのままでは比較的安定であり、N-Nカップリングは起こさない。)
コメント
図などあるとよいかも。