Q. 水素原子引き抜きにおける立体電子効果とは
A.
雑誌会では、生成物のラジカルの電子がC–O結合におけるσ*軌道と非局在化することで安定化していると述べましたが、少し異なっていましたので訂正します。結論から述べますと、ラジカルが酸素上のlone pairと非局在化することによる安定化がおこります。K. U. Ingoldら(K. U. Ingold, et al., J. Am. Chem. Soc.1981, 103, 609)によると、THFなどのエーテル類における、sp3混成である酸素上の二つのlone pairが等価ではなく非等価であると述べています。これは、それぞれのlone pairのエネルギーを紫外光電子分光法(UPS)で測定した結果、異なる値を示したためだと著者らは述べています。そのため、一方のlone pairは「pure p-type orbital」であり、もう一方は「roughly s-type orbital」となっています。さらに、UPSによりp-typeの軌道の方がs-typeに比べ10 eV (230 kcal/mol) 以上も高エネルギーの位置にあることが分かり、このエネルギーがラジカル(不対電子)のもつエネルギーに近いため、非局在化することでより安定化すると述べてありました。このp-typeのlone pairと、ラジカルとなるC–H結合の二面角(θ)が小さければ小さいほど、非局在化しやすいのでより安定化し、反応性が上がります。THFの場合はθ= 30º となっており、非常に近い位置にあることで水素原子引き抜きに対する反応性が大きく向上しました。
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