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190515_雑誌会回答_安

Mechanistic Dichotomy in Proton-Coupled Electron-Transfer Reactions of Phenols with a Copper Superoxide Complex


William. B. Tolman and co-workers, J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 5470-5480.
DOI: 10.1021/jacs.9b00466

同じ配位子を有し、活性部位のみが異なる二種の錯体[CuO2]+, [CuOH]2+の反応性について、フェノール類を基質に用いて比較した論文です。



[質問1]不安定な中間体である[CuOOH]2+のpKaの求め方


上図において、[CuOOH]2+のpKaを求めるためには[CuOOH]2+/+のE1/2の値と[CuOOH]+のBDEの値を求める必要がある。
CVにより[CuOOH]2+/+が非可逆波を示すことが実験的にわかった。そこで、異なるスキャン速度でのhalf-waveをシミュレーションすることで[CuOOH]2+/+のE1/2は-0.215 V (vs Fc+/Fc) と見積もられた。





次に[CuOOH]+のBDEの値を求めたいが実験的に求めるのは困難なため、以下の近似を行う。
上図において反応機構の交差点(X = Me)付近ではPT機構とCPET機構の熱力学的なdriving forceはだいたい同じである(ΔGPT = ΔGCPET)と仮定する。
ここで、ΔGPTΔGCPET、BDECuOO-H (in DMSO)、BDFEArO-H (Me) (in THF)はそれぞれ以下の式で表せる。
ΔGCPET BDFEArO-H (Me)BDECuOO-H ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・eq1


BDECuOO-H  = 1.37 pKa(CuOO-H) + 23.06 E1/2 (CuOOH) + CH ・・・・・・・・・・・・・eq2

ΔGPT = 2.303 RT ( pKa(ArO-H (Me)) pKa(CuOO-H))・・・・・・・・・・・・・・・・・・eq3


ここで、BDFEArO-H (Me) = 87.1 kcal/mol (ref 1)、CH66 kcal/mol (THF中での定数) (ref 2)、E1/2 (CuOOH)-0.215 V (vs Fc+/Fc) (上で見積もった)、 pKa(ArO-H (Me)) = 19.1 (in DMSO) (ref 1)、R: 気体定数、T: 絶対温度 (213 K)より、

ΔGCPET = 25.181.37 pKa(CuOO-H)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・eq4

ΔGPT = 18.43 0.975 pKa(CuOO-H)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・eq5


近似よりeq4 = eq5なので、
pKa(CuOO-H) = ~19 (in THF)
と求まる。

また、得られたpKaの値をeq2に代入して
BDECuOO-H  = ~87 kcal/mol
と見積もられる。

ref 1: M. Mayer and co-workers, Chem. Rev. 2010, 110, 6961–7001
ref 2: C. T. Schweitzer and co-workers,  J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 3375-3388







コメント

Yuma Morimoto さんの投稿…
お疲れ様です。ボックススキームの使い方がだいぶわかったと思います。
彼らが、CuOOH錯体のBDEもpKaも分かっていない状態で、ボックススキームを完成させることができたのは、特殊かつ幸運な例だとおもいます。
というのも、反応機構がPTETから、CPETへと切り替わるところを押さえることができたからです。
切り替わり点においては、ΔG‡(PT) = ΔG‡(CPET) となることは納得できます。
どちらの反応経路を通っても、速度が同じ、というのはそういうことです。

一方気になるのは、活性化エネルギー(ΔG‡) が同じであれば、自由エネルギー変化 (ΔG°) も同じ、というのはやや乱暴な近似かもしれません。

一般に自由エネルギー変化と、活性化エネルギーの間には、直線的自由エネルギー関係と呼ばれる関係が見られます。
0<α<1 となるような定数αと、定数G(0)をつかって式にすると、

ΔG‡ = G(0) – α ΔG°

というような関係式で表されます。つまり、自由エネルギーが負に変化する反応ほど、活性化エネルギーは小さくなります。
もちろん、これは同じタイプの基質の反応性比較のときしか使えません。

つまり、ΔG‡ が同じでも、G(0) と α の項が同じにならないと、
ΔG°(PT) = ΔG°(CPET) とはなりません。

とはいえ、反応のタイプは近いので、確かにそれなりに近い値になるんでしょうね。
有効数字の問題になってくるのかと思います。19±1 なのか、それとも19±10 なのか。。
数字がないより合ったほうが、研究としてはもちろん良いと思います。
伊東研の研究でも、この方法で見積もれそうな場合は、一応やってみると良いですね。
アルコールと同じくらいかーとか、アミンくらいかーとか、発見がありそうです。


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