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無機化学:モデル鉄錯体による窒素からアンモニアへの触媒変換


Nature
 
501,
 
84–87
 
 
doi:10.1038/nature12435
Received
 
Accepted
 
Published online
 
窒素(N )のアンモニア(NH )への還元は、生命活動にとって不可欠な変換である。ニトロゲナーゼ酵素中の鉄含有量の多い補因子がこの変換を起こりやすくすることが広く認められているが、その機構は、ほとんど明らかになっていない。特に、N の配位と還元が起こる正確な部位が議論の中心となってきた。合成無機化学では、初めの頃、モリブデンに重点が置かれていた。モリブデンがニトロゲナーゼに不可欠な元素と考えられており、また、構造が明らかなモデルモリブデン錯体がN のNH への化学量論的変換を仲介できることが確認されていたからである。モリブデン中心を持つ、構造の明確な2種類の分子系が、この化学変換を触媒的に行うことができる。しかし現在では、全てのニトロゲナーゼに不可欠な唯一の遷移金属は鉄であると考えられており、最近の生化学的・分光学的データからも、FeMo補因子中のN 結合部位はモリブデンではなく鉄であることが示唆されている。今回我々は、鉄担持トリス(ホスフィン)ボラン錯体が温和な条件下でN のNH 3への還元を触媒すること、ならびにこの反応ではプロトンおよび還元当量の40%以上がN に運ばれることを報告する。我々の結果から、触媒によるNH 形成中に生じるさまざまなN 中間体を単一の鉄部位が安定化し得ることが示唆される。我々のモデル系では、フレキシブルな鉄–ホウ素相互作用によって鉄周辺の幾何構造が調節可能であり、そのことが高効率触媒反応に重要だと思われる。我々は、最近ニトロゲナーゼ補因子に仲間入りした格子間炭素原子も同様な役割を果たしていることを提案する。格子間炭素原子はおそらく、フレキシブルな鉄–炭素相互作用によって単一の鉄部位が酵素触媒反応を仲介することを可能にしているのだろう。

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