スキップしてメイン コンテンツに移動

190612_雑誌会回答(播木)

Activation of a Non-Heme Fe(III)–OOH by a Second Fe(III) to Hydroxylate Strong C–H Bonds : Possible Implications for Soluble Methane Monooxygenase

Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 1-6
DOI : 10.1002/anie.201903465

この論文では[FeIII(β-BPMCN)OOH]2+に三価の鉄を加えることで、ハイドロパーオキソの末端側の酸素に相互作用させ酸素酸素結合を開裂しやすくし鉄五価錯体を生成し、シクロヘキサンやベンゼンを水酸化しやすくする反応が取り上げられています。

Q1. 錯体に対して2当量のFe3+をルイス酸として加えたときに最もTONが大きくなっているのはなぜか。

Q2. ルイス酸としてがSc3+または、Fe3+を加えている。TONSc3+を加えたときの方がFe3+を加えたときよりも小さいが、速度定数はSc3+を加えたときの方がFe3+を加えたときよりも大きい。その理由は何か。

まず、1当量目のルイス酸が[FeIII(β-BPMCN)OOH]2+の末端の酸素原子と相互作用することで酸素酸素間の結合の不均一開裂を促進します。次に、2当量目のルイス酸が金属に配位した酸素原子と相互作用することで[FeIII(β-BPMCN)(O)]2+の生成を促進します。このことから、Fe3+2当量加えたときに最もTONが高くなることが説明できます。

Q2.に関してですが、[FeIII(β-BPMCN)OOH]2+との反応がFeScとでは異なることが考えられます。論文中ではFeIV(O)MIII(M=FeまたはSc)、あるいはFeIV(O)FeIIIから[FeV(β-BPMCN)(O)]2+が生成することが述べられています。TONFe3+を加えたときの方が大きいことよりのFe3+を加えたときの方は[FeV(β-BPMCN)(O)]2+が生成するルートで主に反応が進行するのに対し、Sc3+を加えた場合は[FeV(β-BPMCN)(O)]2+が生成しない別の反応経路で進行するものがあることが考えられます。このため、Sc3+を加えたときの方がFe3+を加えたときの方がTONは小さいが、速度定数はSc3+を加えたときの方がFe3+を加えたときよりも大きいと考えられます。

Q3. FeIII(OTf)3がアセトニトリルに溶けているときの状態はどのようなものか。

Q4. FeIII(OH)3のような沈殿物が生成する可能性は考えられないか。

Q5. (FeIII(OH))2+として存在するのか。


FeIII(OTf)3がアセトニトリル溶媒に溶けている場合の状態はFeIII(NCCH3)3(OTf)3のような状態になっていると考えられます。FeIII(OTf)3がルイス酸として[FeIII(β-BPMCN)OOH]2+の末端の酸素原子と相互作用し酸素酸素間の結合の不均一開裂を起こした後は、FeIII(NCCH3)2OH(OTf)3のような状態で存在していると考えられます。また、FeIII(OTf)3[FeIII(β-BPMCN)OOH]2+よりも多く加えられているため、FeIII(OH)3のような沈殿物が生成する可能性は少ないと考えられます。

コメント

人気の投稿

雑誌会(200115)回答_藤田

Ligand Redox Noninnocence in  [Co III (TAML)] 0/–   Complexes Affects Nitrene Formation Nicolaas P. van Leest, Martijn A. Tepaske, Jean-Pierre H. Oudsen,  Bas Venderbosch, Niels R. Rietdijk, Maxime A. Siegler, Moniek Tromp, Jarl Ivar van der Vlugt, and Bas de Bruin DOI: 10.1021/jacs.9b11715 J . Am. Chem. Soc. ASAP 訂正 雑誌会スライド8、9枚目の [Co III (TAML sq )] – の有効磁気モーメントの数値が [Co III (TAML red )] – のものになっていましたので、訂正致します。 誤: µ eff = 2.94  µ B ( S  =1/2) 正: µ eff =  1.88  µ B  ( S  =1/2) Evans 法 NMR によって常磁性化合物の磁化率を求める方法。以下の式1– 5によって磁化率、有効磁気モーメントおよびスピン量子数 S が得られる。 以下は Supporting Information の記述である。 1.      常磁性種、内部標準を含んだ溶液を入れた NMR チューブの中に、内部標準だけを含んだ溶液を入れたキャピラリーを入れ、 NMR を測定する。 2.      内部標準のピークのシフト幅 Δν から磁化率 χ (cm 3 g -1 )を 計算する(式1)。 1 (ν 0 :  共鳴周波数、 c : 常磁性種の濃度、 M :  常磁性種のモル質量 ) 3.      磁化率 χ に M を 掛けること で、モル磁化率 χ M (cm 3 mol -1 )を 計算する(式2)。 ...

A low-spin Fe(iii) complex with 100-ps ligand- to-metal charge transfer photoluminescence

Authors: Pavel Chábera, Yizhu Liu, Om Prakash, Erling Thyrhaug, Amal El Nahhas, Alireza Honarfar, Sofia Essén, Lisa A. Fredin, Tobias C. B. Harlang, Kasper S. Kjær, Karsten Handrup, Fredric Ericson, Hideyuki Tatsuno, Kelsey Morgan, Joachim Schnadt, Lennart Häggström, Tore Ericsson, Adam Sobkowiak, Sven Lidin, Ping Huang, Stenbjörn Styring, Jens Uhlig, Jesper Bendix, Reiner Lomoth, Villy Sundström, Petter Persson & Kenneth Wärnmark Nature 543, 695–699 (30 March 2017) doi:10.1038/nature21430 Received 03 August 2016 Accepted 23 January 2017 Published online 29 March 2017 https://www.nature.com/nature/journal/v543/n7647/pdf/nature21430.pdf 解説記事: Making iron glow 蛍光を発する鉄(III)錯体ができたというNatureの論文です。 だからなんだよ?と思うかもしれませんが、鉄の錯体を光らせることは非常に難しいとされてきました。 ルテニウム(II)やイリジウム(III)といった第五、第六周期の遷移金属錯体では、高い発光量子収率をもった(より、効率的に光る)錯体が数多く知られています。 一方で、配位子場分裂がルテニウムなどと比べて小さな鉄錯体では、MLCT励起で生成した電子配置と、鉄のtg電子が一つだけegへと励起した電子配置が近いため、非常に早く電子が鉄へと戻ってきてしまうためです ( Anal.Chem.63, 829A–837A ...

Investigating the Underappreciated Hydrolytic Instability of 1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene and Related Unsaturated Nitrogenous Bases

https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.oprd.9b00187?rand=gzylk8tq Alan M. Hyde, Ralph Calabria, Rebecca Arvary, Xiao Wang, Artis Klapars Department of Process Research & Development, MRL, Merck & Co., Inc. United States Org. Process Res. Dev. 2019, ASAP メルクの社員さんの論文です。DBUなどのアミジン、あるいはグアニジン構造を持った塩基が、ゆっくりと加水分解していることを報告しています。薬の研究中にそれに気付いて、ちゃんと報告せねばならんと思ったと書いてあります(偉い人たちですね)。 上の表の塩基について実験しています。微量の水から水酸化物イオンが出て、それにより加水分解が始まるので、たとえば水溶液にしたときに、pHが11.6以下なら分解しないそうです。 TBDという塩基、DBUより強いので、使ってみても良さそうですね。

Tetrakis[3,5-bis(pentafluorosulfanyl)phenyl]borate: A Weakly Coordinating Anion Probed in Polymerization Catalysis

Daniel Langford, Inigo Göttker-Schnetmann, Florian P. Wimmer, Larissa A. Casper, Philip Kenyon, Rainer F. Winter, Stefan Mecking* Publication Date:July 3, 2019 https://doi.org/10.1021/acs.organomet.9b00332 Copyright © 2019 American Chemical Society Organometallics の論文です。ニッケル触媒の仕事、というよりカウンターアニオンとして新たに合成された、ペンタフルオロスルファニル基(-SF6)を有するボレートが渋いので、紹介します。 近年、トリフルオロメチル基は高い電子求引性を有する置換基として大活躍していますが、同様に高い電子求引性を有するSF6基は、"スーパー"トリフルオロメチル基としての地位を確立しつつあるそうです。 我々のグループでもよく用いているテトラフェニルボレートアニオン(BPh4-)は、優れた対アニオンですが、酸化剤と反応してしまうこともあることが知られています。カーリンらのグループ?からは、フェニル基の3,5位に、電子求引性の高いCF3を導入した錯体を用いると、活性種の安定性が大きく変わることを報告しているようです。このようなアニオンはBArFと呼ばれて親しまれています(下図左)。 本論文で著者らは、対応するグリニャール試薬とBCl3を反応させることで、下図右のカウンターアニオン、S-BArFを新たに合成しています。高い電子求引性による電荷の分散効果と、立体によるホウ素中心への攻撃の阻害が期待されます。 250°Cくらいまで、熱には安定なようです。筆者らは、ニッケル錯体の対アニオンとしてこのアニオンを利用したところ、重合触媒活性があがったと報告しています。ニッケル錯体と、対アニオンの相互作用が小さいこと、対アニオンの安定性が高いことなどの理由があると思います(このあたりはちゃんと読んでいません)。 計算したところ、HOMOの非局在化具合はBArF、S-BArFとあまり変わらない(それぞれ、92%、93%)ようですが、LUMOがS-BArFで...

High-Energy-Resolution Fluorescence-Detected X‑ray Absorption of the Q Intermediate of Soluble Methane Monooxygenase

Rebeca G. Castillo,† Rahul Banerjee,‡ Caleb J. Allpress,§ Gregory T. Rohde,§ Eckhard Bill,† Lawrence Que, Jr.,*,§ John D. Lipscomb,*,‡ and Serena DeBeer*,† † Max Planck Institute for Chemical Energy Conversion, Stiftstrasse 34-36, D-45470 Mülheim an der Ruhr, Germany ‡ Department of Biochemistry, Molecular Biology, and Biophysics and § Department of Chemistry, University of Minnesota, Minneapolis, Minnesota 55455, United States http://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.7b09560 HERFD XASを用いて、sMMOの活性部位の構造について議論しています。 まだ実験、計算が必要だが、オープンコアの構造を有していると著者らは述べています。