Michael J. Drummond,† Courtney L. Ford,† Danielle L. Gray,† Codrina V. Popescu,‡ and Alison R. Fout*,†
DOI: 10.1021/jacs.9b01516
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 6639−6650
2種類のFe(III)-OH錯体の反応性の違い |
この論文では、下図のように互変異性を起こすことができる配位子を有する第二配位圏におけるヒドロキソ部位に対する水素結合様式が異なる2種類のFe(III)-OH錯体を合成しました。iron-2OGという酵素は、体内でリバウンドによる水酸化反応と水素原子引き抜き反応のどちらも行っていますが、どのように反応を選択しているのか実験的に考察した例はありません。この論文では2種類のFe(III)-OH錯体と有機ラジカルとの反応性を確認して酵素における反応選択性について言及しています。
この論文の結論ですが、錯体4は速やかに有機ラジカルと反応して水酸化物を与えたのに対して、錯体5はほとんど水酸化物を与えなかったことから、配位子のイミン部位がヒドロキソ部位の水素結合アクセプターとして働いていることがリバウンド反応の抑制に効いていることが分かりました。また錯体5に水分子を添加するとリバウンド反応が進行するため、塩基性の高い錯体5は水分子のプロトンを引き抜きその後の1電子酸化を伴う(PT-ET)機構でヒドロキソラジカルを発生させ水酸化反応が進行することが分かりました。
Q1, CVで錯体4→錯体2であることの確認は取れているか。
A1, 電解してUVを取ったりしていないため分かりませんが、上図のボックススキームのように錯体2と錯体1は酸塩基反応になっているため、非プロトン性溶媒(CH3CN)で実験をしている今回の場合では錯体1の生成は考えにくく錯体4と錯体2の可逆な酸化還元波が見えていると思います。
Q2, リバウンドのし易さに関して、イミンが相互作用してどのようになりリバウンド反応を抑制しているのか。
A2, 非常に難しい質問です。
錯体5と錯体4の酸化力を反応後の錯体のO-H結合の結合解離エネルギーの大きさから見積もっていますが、そもそもリバウンド反応は水素原子引き抜き反応ではないので怪しい議論だと思いました。また、リバウンド反応だけで見ると錯体は1電子還元されるだけの反応のなのでより低い酸化還元電位を持つ錯体5の方が速やかにリバウンド反応を起こしそうです。本文では、イミンが水素結合アクセプターになっていることや、低い酸化還元電位を持つことが反応の選択性に効いているのではないかと言及されていましたが、詳しくはfoutさんらにも良く分からないみたいです。
ここからは僕の考えですが、互変異性を起こす時に必要なエネルギーを加味する必要があると思いました。錯体4は配位子のフォームが変わっていないため互変異性に伴うエネルギー(再配列エネルギー?)が小さいですが、錯体5に関しては、1電子還元後に互変異性を伴うため再配列エネルギーが大きくなると思います。計算で比較して欲しいです。
コメント
プロトン移動の障壁がどれくらいになるのか、興味深いですね。