スキップしてメイン コンテンツに移動

Four-Coordinate Copper Halonitrosyl {CuNO}10 Complexes

Four-Coordinate Copper Halonitrosyl {CuNO}10Complexes

Jamey K. Bower, Alexander Yu Sokolov, and Shiyu Zhang*

Shiyu Zhangらによる銅ニトロシル錯体{CuNO}10の報告です。

銅ニトロシル錯体は{CuNO}11{CuNO}10の2種類が報告されています。
{CuNO}11の結晶構造は今まで3例ほど報告されていますが、{CuNO}10の結晶構造はHaytonらによる、溶媒のニトロメタンが配位した1例しか報告されていません。

今回銅ハロゲン化物に低温(-85ºC)で一酸化窒素を吹き込むことで、[Cl3CuNO]({CuNO}10)が生成することを確認しました。


また、温度を35ºC まで上昇させると、一酸化窒素を放出する逆反応も進行することも報告しています。

同様の化合物は亜硝酸イオンと塩酸を銅ハロゲン化物に加えることでも生成することも確認しています。

UV, IR, ,EPR, X-ray{CuNO}10種の分光学的測定を行なっており、これらの結果から、銅と一酸化窒素配位子の酸化状態はそれぞれCu(II)と•NOの状態であり、それぞれの不対電子が反強磁性的にカップリングしたS = 0の状態であると結論づけています。


通常、銅と一酸化窒素の付加体は、一酸化窒素からの逆供与が可能な直線構造をとることが多いのですが、この直線構造は{CuNO}11種に多く見られている一方で、今回も含めて{CuNO}10種では全て折れ線構造であることに非常に興味が持たれています。
また、自分の扱っている銅一酸化窒素付加体も同様の折れ線構造であることが示唆されました。

また、この銅一酸化窒素付加体に対して、アミン、アルコキシラート、チオールを求核剤として反応させることで、それぞれのニトロソ化化合物が高収率で得られることも報告しています。

配位子ではなくハロゲンイオンを用いている点で、もちろん電子の寄与などは異なりますが、配位子による構造的な縛りはなく最安定な構造で存在しているため、どのような配位構造、配位形式が最も銅一酸化窒素付加体を安定化させることができるのかを知る1つの手がかりになると考えています。

コメント

Yuma Morimoto さんの投稿…
しっかり説明してくれて、ありがとうございます。
反応性も見ているんですね。錯体で、どのような付加価値が与えられるかしっかり考えねばなりませんね。
Yuma Morimoto さんの投稿…
計算化学的には、すんなりと電子状態を記述することが難しかったようです。ブロークンシンメトリー-DFT法、カップルドクラスター法ではうまく
X線構造が得られなかったとして、最終的には計算コストがかかる、CASSCF法を用いています。Cu(I)-NO(+)状態と、Cu(III)-NO(–)の重ね合わせとして、Cu(II)-NO(•)状態にあると結論しています。CASでは、Cu(II)-NO(•)状態は直接でてこないのでしょうか?

人気の投稿

雑誌会(200115)回答_藤田

Ligand Redox Noninnocence in  [Co III (TAML)] 0/–   Complexes Affects Nitrene Formation Nicolaas P. van Leest, Martijn A. Tepaske, Jean-Pierre H. Oudsen,  Bas Venderbosch, Niels R. Rietdijk, Maxime A. Siegler, Moniek Tromp, Jarl Ivar van der Vlugt, and Bas de Bruin DOI: 10.1021/jacs.9b11715 J . Am. Chem. Soc. ASAP 訂正 雑誌会スライド8、9枚目の [Co III (TAML sq )] – の有効磁気モーメントの数値が [Co III (TAML red )] – のものになっていましたので、訂正致します。 誤: µ eff = 2.94  µ B ( S  =1/2) 正: µ eff =  1.88  µ B  ( S  =1/2) Evans 法 NMR によって常磁性化合物の磁化率を求める方法。以下の式1– 5によって磁化率、有効磁気モーメントおよびスピン量子数 S が得られる。 以下は Supporting Information の記述である。 1.      常磁性種、内部標準を含んだ溶液を入れた NMR チューブの中に、内部標準だけを含んだ溶液を入れたキャピラリーを入れ、 NMR を測定する。 2.      内部標準のピークのシフト幅 Δν から磁化率 χ (cm 3 g -1 )を 計算する(式1)。 1 (ν 0 :  共鳴周波数、 c : 常磁性種の濃度、 M :  常磁性種のモル質量 ) 3.      磁化率 χ に M を 掛けること で、モル磁化率 χ M (cm 3 mol -1 )を 計算する(式2)。 ...

A low-spin Fe(iii) complex with 100-ps ligand- to-metal charge transfer photoluminescence

Authors: Pavel Chábera, Yizhu Liu, Om Prakash, Erling Thyrhaug, Amal El Nahhas, Alireza Honarfar, Sofia Essén, Lisa A. Fredin, Tobias C. B. Harlang, Kasper S. Kjær, Karsten Handrup, Fredric Ericson, Hideyuki Tatsuno, Kelsey Morgan, Joachim Schnadt, Lennart Häggström, Tore Ericsson, Adam Sobkowiak, Sven Lidin, Ping Huang, Stenbjörn Styring, Jens Uhlig, Jesper Bendix, Reiner Lomoth, Villy Sundström, Petter Persson & Kenneth Wärnmark Nature 543, 695–699 (30 March 2017) doi:10.1038/nature21430 Received 03 August 2016 Accepted 23 January 2017 Published online 29 March 2017 https://www.nature.com/nature/journal/v543/n7647/pdf/nature21430.pdf 解説記事: Making iron glow 蛍光を発する鉄(III)錯体ができたというNatureの論文です。 だからなんだよ?と思うかもしれませんが、鉄の錯体を光らせることは非常に難しいとされてきました。 ルテニウム(II)やイリジウム(III)といった第五、第六周期の遷移金属錯体では、高い発光量子収率をもった(より、効率的に光る)錯体が数多く知られています。 一方で、配位子場分裂がルテニウムなどと比べて小さな鉄錯体では、MLCT励起で生成した電子配置と、鉄のtg電子が一つだけegへと励起した電子配置が近いため、非常に早く電子が鉄へと戻ってきてしまうためです ( Anal.Chem.63, 829A–837A ...

Investigating the Underappreciated Hydrolytic Instability of 1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene and Related Unsaturated Nitrogenous Bases

https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.oprd.9b00187?rand=gzylk8tq Alan M. Hyde, Ralph Calabria, Rebecca Arvary, Xiao Wang, Artis Klapars Department of Process Research & Development, MRL, Merck & Co., Inc. United States Org. Process Res. Dev. 2019, ASAP メルクの社員さんの論文です。DBUなどのアミジン、あるいはグアニジン構造を持った塩基が、ゆっくりと加水分解していることを報告しています。薬の研究中にそれに気付いて、ちゃんと報告せねばならんと思ったと書いてあります(偉い人たちですね)。 上の表の塩基について実験しています。微量の水から水酸化物イオンが出て、それにより加水分解が始まるので、たとえば水溶液にしたときに、pHが11.6以下なら分解しないそうです。 TBDという塩基、DBUより強いので、使ってみても良さそうですね。

Tetrakis[3,5-bis(pentafluorosulfanyl)phenyl]borate: A Weakly Coordinating Anion Probed in Polymerization Catalysis

Daniel Langford, Inigo Göttker-Schnetmann, Florian P. Wimmer, Larissa A. Casper, Philip Kenyon, Rainer F. Winter, Stefan Mecking* Publication Date:July 3, 2019 https://doi.org/10.1021/acs.organomet.9b00332 Copyright © 2019 American Chemical Society Organometallics の論文です。ニッケル触媒の仕事、というよりカウンターアニオンとして新たに合成された、ペンタフルオロスルファニル基(-SF6)を有するボレートが渋いので、紹介します。 近年、トリフルオロメチル基は高い電子求引性を有する置換基として大活躍していますが、同様に高い電子求引性を有するSF6基は、"スーパー"トリフルオロメチル基としての地位を確立しつつあるそうです。 我々のグループでもよく用いているテトラフェニルボレートアニオン(BPh4-)は、優れた対アニオンですが、酸化剤と反応してしまうこともあることが知られています。カーリンらのグループ?からは、フェニル基の3,5位に、電子求引性の高いCF3を導入した錯体を用いると、活性種の安定性が大きく変わることを報告しているようです。このようなアニオンはBArFと呼ばれて親しまれています(下図左)。 本論文で著者らは、対応するグリニャール試薬とBCl3を反応させることで、下図右のカウンターアニオン、S-BArFを新たに合成しています。高い電子求引性による電荷の分散効果と、立体によるホウ素中心への攻撃の阻害が期待されます。 250°Cくらいまで、熱には安定なようです。筆者らは、ニッケル錯体の対アニオンとしてこのアニオンを利用したところ、重合触媒活性があがったと報告しています。ニッケル錯体と、対アニオンの相互作用が小さいこと、対アニオンの安定性が高いことなどの理由があると思います(このあたりはちゃんと読んでいません)。 計算したところ、HOMOの非局在化具合はBArF、S-BArFとあまり変わらない(それぞれ、92%、93%)ようですが、LUMOがS-BArFで...

High-Energy-Resolution Fluorescence-Detected X‑ray Absorption of the Q Intermediate of Soluble Methane Monooxygenase

Rebeca G. Castillo,† Rahul Banerjee,‡ Caleb J. Allpress,§ Gregory T. Rohde,§ Eckhard Bill,† Lawrence Que, Jr.,*,§ John D. Lipscomb,*,‡ and Serena DeBeer*,† † Max Planck Institute for Chemical Energy Conversion, Stiftstrasse 34-36, D-45470 Mülheim an der Ruhr, Germany ‡ Department of Biochemistry, Molecular Biology, and Biophysics and § Department of Chemistry, University of Minnesota, Minneapolis, Minnesota 55455, United States http://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.7b09560 HERFD XASを用いて、sMMOの活性部位の構造について議論しています。 まだ実験、計算が必要だが、オープンコアの構造を有していると著者らは述べています。