スキップしてメイン コンテンツに移動

A Terminal Fe(III)−Oxo in a Tetranuclear Cluster: Effects of Distal Metal Centers on Structure and Reactivity



A Terminal Fe(III)−Oxo in a Tetranuclear Cluster: Effects of Distal Metal
Centers on Structure and Reactivity

Christopher J. Reed and Theodor Agapie

DOI: 10.1021/jacs.9b03157
J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 9479
Figure 1


概要

AgapieらのグループはPhotosystemIIにおける酸素発生部位である、マンガンカルシウムクラスターなど天然に存在する金属クラスターに着想を得た触媒の開発に取り組んでいるグループです。

今回の論文では、彼らがよく用いている配位子系に水素結合を形成する部分を導入することで三価鉄オキソ種の安定化に成功しています。

また、末端の鉄オキソ種以外の3つの鉄に関しても、その酸化状態を変化させた錯体に関して単離しており、メスバウアー、CV、X-rayなどを用いて詳しく解析しています。


この論文の面白いところは末端の鉄原子は全くレドックスしないまま残りの3つの鉄原子の酸化状態が変化することで反応性は変化することです。

フェノール類との反応に関して、錯体5ではプロトン移動が起こるのに対して、錯体6、錯体7ではプロトンと電子の移動が起こりました。

pKa、酸化還元電位、BDEなど熱力学的パラメーターを求めると、直接反応に関与していない3つの鉄が酸化されていくとpKaは小さくなる一方、BDEが大きくなることが分かりました。これにより高酸化状態ではプロトントランスファーよりPCETのような反応が起こりやすくなることが理論的にも支持されました。


また錯体5に関して、種々のアルカンを用いて酸化反応を行うとその二次速度定数はBDEではなくpKaに依存することが明らかとなりpka-drivenの反応であることが示唆されました。

質問回答

Q1
BDEと相関がないが大きなKIE(DHAの場合で6.7)が出ている。

A1
今回、筆者らがpKa-drivenの反応であるとした際に引用していた論文は以前新家君が雑誌会で紹介してくれた論文でコバルトオキソ種の反応が基質のpKaに依存するというものでした。(J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 4051−4062)
今回の論文でKIEを求めた基質であるDHAに関してKIEが算出されておりその値は10±2でした。これはclassical limitを超えておりトンネル効果の寄与が示唆される値です。一方でより酸性度の大きなフルオレンを基質として用いた場合そのKIEは3.2と小さな値を示しています。
このコバルトオキソ種のpkaが約26と計算されており、今回筆者らの用いた錯体のpkaが30.1とより塩基性が強いことを考えると、トンネル効果の寄与が小さくなったものの存在していると解釈できると思いました。

Q2
フルオレンを基質として用いた場合二次速度定数が10の6乗と非常に大きいがどのように測定したのか。

A2
速度論に用いた分光計についての記述は特にありませんでしたがおそらくストップ度フローなどは使用していないように思います。
各基質に対する二次速度定数の値


キサンテンに対する速度論的解析(図の横軸がキシレンになっていますがおそらく間違い)


フルオレン以外の基質に関しては擬一次の速度定数を求めてそこから二次速度定数を求めています。
この図の傾きはmin-1M-1であり、これをs-1M-1に変換するためには60で割ろうとしたのですが、そのようにすると表の値とうまく合わず60をかけると表の値と合いました。
計算について得意な人教えてください。

またフルオレンに関しては速度が速いため?擬一次の濃度では実験は行われていませんでした。
フルオレンを基質として用いた場合

しかしながらそのタイムスケールはminであり二次速度定数の値から予想されるよりも遅い反応となっています。
僕自身、擬一次の解析した行ったことがなくこのように二次のプロットをしたことがないのでこの解析についてよくわかりません、申し訳ないです。
筆者らの過去の論文をみれば詳しく書いているかもしれないので見ておきたいと思います。

コメント

人気の投稿

雑誌会(200115)回答_藤田

Ligand Redox Noninnocence in  [Co III (TAML)] 0/–   Complexes Affects Nitrene Formation Nicolaas P. van Leest, Martijn A. Tepaske, Jean-Pierre H. Oudsen,  Bas Venderbosch, Niels R. Rietdijk, Maxime A. Siegler, Moniek Tromp, Jarl Ivar van der Vlugt, and Bas de Bruin DOI: 10.1021/jacs.9b11715 J . Am. Chem. Soc. ASAP 訂正 雑誌会スライド8、9枚目の [Co III (TAML sq )] – の有効磁気モーメントの数値が [Co III (TAML red )] – のものになっていましたので、訂正致します。 誤: µ eff = 2.94  µ B ( S  =1/2) 正: µ eff =  1.88  µ B  ( S  =1/2) Evans 法 NMR によって常磁性化合物の磁化率を求める方法。以下の式1– 5によって磁化率、有効磁気モーメントおよびスピン量子数 S が得られる。 以下は Supporting Information の記述である。 1.      常磁性種、内部標準を含んだ溶液を入れた NMR チューブの中に、内部標準だけを含んだ溶液を入れたキャピラリーを入れ、 NMR を測定する。 2.      内部標準のピークのシフト幅 Δν から磁化率 χ (cm 3 g -1 )を 計算する(式1)。 1 (ν 0 :  共鳴周波数、 c : 常磁性種の濃度、 M :  常磁性種のモル質量 ) 3.      磁化率 χ に M を 掛けること で、モル磁化率 χ M (cm 3 mol -1 )を 計算する(式2)。 4.      χ M から反磁性種のモル磁化率 χ Dia M を差し引いて常磁性種の正味のモル磁化率 χ P M を計算する(式3) 2 。 5.      得られた χ P M を式4に代入して有効磁気モーメントを

A low-spin Fe(iii) complex with 100-ps ligand- to-metal charge transfer photoluminescence

Authors: Pavel Chábera, Yizhu Liu, Om Prakash, Erling Thyrhaug, Amal El Nahhas, Alireza Honarfar, Sofia Essén, Lisa A. Fredin, Tobias C. B. Harlang, Kasper S. Kjær, Karsten Handrup, Fredric Ericson, Hideyuki Tatsuno, Kelsey Morgan, Joachim Schnadt, Lennart Häggström, Tore Ericsson, Adam Sobkowiak, Sven Lidin, Ping Huang, Stenbjörn Styring, Jens Uhlig, Jesper Bendix, Reiner Lomoth, Villy Sundström, Petter Persson & Kenneth Wärnmark Nature 543, 695–699 (30 March 2017) doi:10.1038/nature21430 Received 03 August 2016 Accepted 23 January 2017 Published online 29 March 2017 https://www.nature.com/nature/journal/v543/n7647/pdf/nature21430.pdf 解説記事: Making iron glow 蛍光を発する鉄(III)錯体ができたというNatureの論文です。 だからなんだよ?と思うかもしれませんが、鉄の錯体を光らせることは非常に難しいとされてきました。 ルテニウム(II)やイリジウム(III)といった第五、第六周期の遷移金属錯体では、高い発光量子収率をもった(より、効率的に光る)錯体が数多く知られています。 一方で、配位子場分裂がルテニウムなどと比べて小さな鉄錯体では、MLCT励起で生成した電子配置と、鉄のtg電子が一つだけegへと励起した電子配置が近いため、非常に早く電子が鉄へと戻ってきてしまうためです ( Anal.Chem.63, 829A–837A

Investigating the Underappreciated Hydrolytic Instability of 1,8-Diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene and Related Unsaturated Nitrogenous Bases

https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/acs.oprd.9b00187?rand=gzylk8tq Alan M. Hyde, Ralph Calabria, Rebecca Arvary, Xiao Wang, Artis Klapars Department of Process Research & Development, MRL, Merck & Co., Inc. United States Org. Process Res. Dev. 2019, ASAP メルクの社員さんの論文です。DBUなどのアミジン、あるいはグアニジン構造を持った塩基が、ゆっくりと加水分解していることを報告しています。薬の研究中にそれに気付いて、ちゃんと報告せねばならんと思ったと書いてあります(偉い人たちですね)。 上の表の塩基について実験しています。微量の水から水酸化物イオンが出て、それにより加水分解が始まるので、たとえば水溶液にしたときに、pHが11.6以下なら分解しないそうです。 TBDという塩基、DBUより強いので、使ってみても良さそうですね。

Tetrakis[3,5-bis(pentafluorosulfanyl)phenyl]borate: A Weakly Coordinating Anion Probed in Polymerization Catalysis

Daniel Langford, Inigo Göttker-Schnetmann, Florian P. Wimmer, Larissa A. Casper, Philip Kenyon, Rainer F. Winter, Stefan Mecking* Publication Date:July 3, 2019 https://doi.org/10.1021/acs.organomet.9b00332 Copyright © 2019 American Chemical Society Organometallics の論文です。ニッケル触媒の仕事、というよりカウンターアニオンとして新たに合成された、ペンタフルオロスルファニル基(-SF6)を有するボレートが渋いので、紹介します。 近年、トリフルオロメチル基は高い電子求引性を有する置換基として大活躍していますが、同様に高い電子求引性を有するSF6基は、"スーパー"トリフルオロメチル基としての地位を確立しつつあるそうです。 我々のグループでもよく用いているテトラフェニルボレートアニオン(BPh4-)は、優れた対アニオンですが、酸化剤と反応してしまうこともあることが知られています。カーリンらのグループ?からは、フェニル基の3,5位に、電子求引性の高いCF3を導入した錯体を用いると、活性種の安定性が大きく変わることを報告しているようです。このようなアニオンはBArFと呼ばれて親しまれています(下図左)。 本論文で著者らは、対応するグリニャール試薬とBCl3を反応させることで、下図右のカウンターアニオン、S-BArFを新たに合成しています。高い電子求引性による電荷の分散効果と、立体によるホウ素中心への攻撃の阻害が期待されます。 250°Cくらいまで、熱には安定なようです。筆者らは、ニッケル錯体の対アニオンとしてこのアニオンを利用したところ、重合触媒活性があがったと報告しています。ニッケル錯体と、対アニオンの相互作用が小さいこと、対アニオンの安定性が高いことなどの理由があると思います(このあたりはちゃんと読んでいません)。 計算したところ、HOMOの非局在化具合はBArF、S-BArFとあまり変わらない(それぞれ、92%、93%)ようですが、LUMOがS-BArFで

High-Energy-Resolution Fluorescence-Detected X‑ray Absorption of the Q Intermediate of Soluble Methane Monooxygenase

Rebeca G. Castillo,† Rahul Banerjee,‡ Caleb J. Allpress,§ Gregory T. Rohde,§ Eckhard Bill,† Lawrence Que, Jr.,*,§ John D. Lipscomb,*,‡ and Serena DeBeer*,† † Max Planck Institute for Chemical Energy Conversion, Stiftstrasse 34-36, D-45470 Mülheim an der Ruhr, Germany ‡ Department of Biochemistry, Molecular Biology, and Biophysics and § Department of Chemistry, University of Minnesota, Minneapolis, Minnesota 55455, United States http://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.7b09560 HERFD XASを用いて、sMMOの活性部位の構造について議論しています。 まだ実験、計算が必要だが、オープンコアの構造を有していると著者らは述べています。